日本国内の鉄道網は、多くの鉄道会社によって運営されています。したがって、列車の運行やきっぷの発売は、鉄道会社ごとに分断されていることが一般的です。
しかし、列車の運行上、自社の区間を走るだけではなく、他の鉄道会社に乗り入れることがあります。その場合、関係する鉄道会社の間できっぷの発売方について取り決められるのが、「連絡運輸」です。
連絡運輸の中には、JR東海エリアを走る在来線特急列車「南紀」号のように、列車の運行区間の途中で他社の線路を通過する特殊なケースが存在します。
このようなケースにおいて、全区間を1枚のきっぷで発売するために鉄道会社間で結ばれる取り決めが、「通過連絡運輸」です。通過連絡運輸を適用する運賃計算や料金計算には、特別なルールが定められています。
通過連絡運輸が適用される場合、自社線の全区間にかかる営業キロ・擬制キロ・運賃計算キロを通算し、運賃・料金額を算出します。その上で、通過する他社線の運賃・料金を別途加算します。
この記事では、一般的な連絡運輸と通過連絡運輸の違いについて押さえた上で、通過連絡運輸における運賃・料金計算やきっぷの買い方について説明します。
あわせて、通過連絡運輸の取り扱いがある全国の主なJR線区間をまとめました。
- 社線区間をはさんだ前後の区間の営業キロ(運賃計算キロ)を通算できること
- 営業キロの通算については運賃だけでなく料金にも適用されること
- 各種営業割引についてはJR線区間のみに適用されること
連絡運輸と通過連絡運輸
連絡運輸は、一般的な連絡運輸と特殊ケースとしての通過連絡運輸に分けられます。両者が2社間の取り決めであることは共通していますが、経路の組み方や運賃・料金計算方において全く異なったものです。
通過連絡運輸については、旅行業務取扱管理者試験でも出題されるため、しっかりと押さえたいです。
一般的な連絡運輸
冒頭で申し上げた通り、列車を他の鉄道会社に乗り入れる際には、運行やきっぷの発売に関して、関係する鉄道会社が連携する必要があります。また、他社線と乗り継ぐための接続駅に中間改札がない場合にも、同様の連携が必要なことは言うまでもありません。
異なる鉄道会社間を移動する際、本来は会社ごとに別々のきっぷを購入する必要があります。しかし、乗り入れ列車の運行や乗り継ぎ駅でのスムーズな移動のため、全区間を1枚のきっぷで発売できるよう鉄道会社間で結ばれる取り決めが「連絡運輸」です。
この図のように、自社線の駅から2社間の接続駅を経由し、他社線の駅に至るのが、一般的な連絡運輸です。このカテゴリーに含まれる代表的な特急列車には、以下の列車が挙げられます。
- JR中央本線ー富士急行線:「富士回遊」号
- JR湘南新宿ラインー東武日光線:「スペーシア日光」号・「きぬがわ」号
これらの列車の詳細やきっぷの買い方については、以下の記事をあわせてご一読ください。
また、連絡運輸にかかわる基本について、別の記事にまとめてあります。是非ご一読ください。
通過連絡運輸
これに対し、JR線区間の途中で他社線を通過するケースに適用されるのが「通過連絡運輸」です。以下の列車が、このようなケースに該当します。
- 伊勢鉄道線を通過:特急「南紀」号
- 智頭急行線を通過:特急「スーパーはくと」号・「スーパーいなば」号
かつては、越後湯沢ー金沢駅間を結ぶ在来線特急「はくたか」号(北越急行線を通過)にも、この特例が適用されました。
この図に示した通り、通過連絡運輸においては自社線の途中に他社線が含まれる形です。
これらの列車のきっぷについては、鉄道会社ごとに別々のきっぷを購入するのではなく、全区間を1枚のきっぷとして購入します。特殊なケースであるため、このきっぷの運賃計算および料金計算には、後述するような特別なルールが定められています。
通過連絡運輸が適用されたきっぷの券面を見ると、発駅と着駅が同じ鉄道会社であるため、一見して通過連絡運輸とは分かりません。
通過連絡運輸の特例が適用されたきっぷの実例
ここで、通過連絡運輸の特例が適用された実際のきっぷをご紹介します。
前述したように、新潟県上越地域を走る北越急行ほくほく線には、JR線に直通する在来線特急「はくたか」号がかつて走っていました。その名残で、現在でも通過連絡運輸の特例が残っています。
六日町駅(新潟県南魚沼市)でJR上越線、十日町駅(新潟県十日町市)でJR飯山線、そして犀潟駅(新潟県上越市)ではJR信越本線と連絡します。このように、JR線との連絡パターンは、とても複雑です。
これは、経路の途中に北越急行ほくほく線を含んだ連続乗車券の第1券片です。六日町駅から十日町駅までの区間については、ほくほく線を経由します。きっぷの経由欄に注目すると、接続駅と経由線区として「六日町・ほくほく・十日町」と記載されています。
しかし、通過連絡運輸特例が適用されたきっぷであるとは、一見する限り判別できません。
通過連絡運輸が設定された経緯を考察
このように、通過連絡運輸の取り扱いは非常に複雑です。それにもかかわらず、この制度が残っているのはなぜでしょうか。ここでは、通過連絡運輸が設定される背景を簡単に考察します。
連絡運輸および通過連絡運輸の制度は従来から存在し、多くの区間で適用されていました。
かつては、JR線と社線の乗り継ぎを行う駅(「接続駅」といいます)には、中間改札があまりありませんでした(その状態を「ノーラッチ」といいます)。
当時は交通系ICカードも普及していなかったこともあり、ノーラッチで乗り継ぐために普通乗車券を全区間通しで発売する必要がありました。
ところが、現在では交通系ICカードの普及に伴い、中間改札も整備されました。ノーラッチで乗り継げるケースが減少したため、JR線と社線の全区間を通しできっぷを購入する必要性が減少しました。
通過連絡運輸の取り扱いは鉄道会社にとって煩雑であるため、設定区間が2010年代に大幅に整理されました。現在でも取り扱いが残っているのは、以下のような区間が中心です。
- JR線と第三セクター会社にまたがって直通運転される列車の運行区間
- 整備新幹線の開業によって分断されたJR在来線を結ぶ第三セクター会社の区間
通過連絡運輸の具体的な設定区間については、後述したいと思います。
それでは、通過連絡運輸の特例が適用される運賃・料金計算の過程を見ていきましょう!
通過連絡運輸区間における運賃・料金計算
通過連絡運輸の設定区間を含む経路に関する運賃・料金計算の方法は、かなり特殊です。ここでは、その手順を学んでいきましょう。
運行区間の途中で他社線を通過する場合、当該社線区間によってJR線の区間が分断される形になります。そのため、本来はそれぞれの区間を別々に計算する(3枚のきっぷに分かれる)ことになるはずです。
しかし、通過連絡運輸の設定がある場合に限っては、社線にはさまれた前後のJR線区間の運賃・料金を合算できます(1枚のきっぷにまとめる形)。JR各社の運送約款「旅客連絡運輸規則」第43条にて、この手順が規定されています。
JR線のA駅からD駅までの区間の途中に、B駅からC駅までの社線区間を通過するケースを考えましょう。
この場合の算出手順は、次の通りです。
1.JR線区間の運賃・料金の算出
JR幹線のA駅ーB駅間(営業キロ50.0km)と、JR地方交通線のC駅ーD駅間(営業キロ30.0km・運賃計算キロ33.0km)それぞれの営業キロ・擬制キロ・運賃計算キロを合算します。合算した運賃計算キロ83.0kmに対する幹線運賃は1,520円、営業キロ80.0kmに対するA特急料金は1,730円です。各種割引を適用する場合、この段階で割引後の金額を算出します。
各区間の運賃・料金を別々に算出してから、それらを合算するのではありません。
2.社線区間の運賃・料金の加算
上記手順で求めた運賃・料金に、社線のB駅ーC駅間にかかる運賃・料金を加算します。この結果、全区間の運賃・料金を以下の通り求められます。
運賃 | 料金 | |
JR線区間 | 1,520円 | 1,730円 |
社線区間 | 300円 | 200円 |
合計 | 1,820円 | 1,930円 |
通過連絡運輸区間を含むきっぷの買い方
通過連絡運輸が特殊な取り扱いであることから、きっぷの買い方についても押さえておきたいです。
紙のきっぷ(普通乗車券)を原則的に購入
通過連絡運輸の特例がある区間を経由する場合、あらかじめ紙のきっぷ(普通乗車券)を購入することをおススメします。
社線区間を通過する直通特急列車のきっぷに関しては、ネット予約サービスや指定席券売機での自己操作でも購入可能です。しかし、その他の区間については自己操作が難しいため、駅の窓口で購入した方がよいでしょう。その際、駅員がこの特例を知らないことがあり、スムーズに購入できない場合があることに留意したいです。
前述した通り、交通系ICカードが利用できるエリア内において通過連絡運輸の特例を活かすためには、旅行開始前に普通乗車券を購入する必要があります。通過連絡運輸の特例は普通乗車券に適用される制度である上、交通系ICカードでは接続駅を判定できないためです。
ネット予約サービスの利用について
駅で購入することが多い通過連絡運輸関連のきっぷについて、ネット予約サービスを利用して購入できる場合があります。ここでは、JR東日本のネット予約サービス「えきねっと」とJR西日本のネット予約サービス「e5489」についてお話しします。
● えきねっと
JR東日本と通過連絡運輸の取り決めがある鉄道会社の区間が含まれたきっぷをネット上で申し込みできます。
この際注意したいのが、購入したきっぷを受け取る駅です。JR東日本エリア以外のJR他社の駅では、このきっぷを受け取れない場合があります。
通過連絡運輸特例が適用されたきっぷを発売するには、通過する鉄道会社と通過連絡運輸の取り決めが結ばれている必要があります。JR東日本とは通過連絡運輸の設定があったとしても、他のJR会社とは設定がない場合があることがその理由です。
● e5489
通過連絡運輸特例が適用される一部の列車のきっぷを、e5489上で申し込みできます。ただし、e5489で購入できる当該きっぷは、かなり限定的です。「えきねっと」のように、受け取る駅を気にしなければならないようなことはないと考えています。
通過連絡運輸の設定がある全国の主な区間をまとめました!
通過連絡運輸の特例が設定された全国の主な区間
それでは、現在でも通過連絡運輸の設定が残っている区間を具体的に見ていきたいと思います。設定区間は従来から大幅に減少し、真に必要な区間のみが残っている形です。
旅行業務取扱管理者試験対策としては、この特例が適用される個々の区間を暗記する必要はありません。
JR6社共通の通過連絡運輸設定区間
JR6社と通過連絡運輸の設定がある鉄道会社は、全国に10社あります。下表に、鉄道会社と接続駅の組み合わせを示しました。表中「続」と記載した鉄道会社については、連続乗車券の発売が可能です。
鉄道会社名 | 適用会社 | 連続 | 接続駅 | 備考 |
青い森鉄道 | 6社 | 八戸ー野辺地 | ||
6社 | 青森ー野辺地 | |||
IGRいわて銀河鉄道 | 6社 | 盛岡ー好摩 | ||
えちごトキめき鉄道 | 6社 | 直江津ー糸魚川 | ||
6社 | 直江津ー上越妙高 | 特急「しらゆき」直通 | ||
伊勢鉄道 | 6社 | 続 | 河原田ー津 | 特急「南紀」直通 |
IRいしかわ鉄道 | 6社 | 続 | 金沢ー津幡 | 特急「能登かがり火」直通 |
ハピラインふくい | 6社 | 福井ー越前花堂 | ||
京都丹後鉄道 | 6社 | 続 | 福知山ー豊岡 | 特急「はしだて」直通 |
6社 | 続 | 福知山ー西舞鶴 | ||
6社 | 続 | 西舞鶴ー豊岡 | ||
智頭急行 | 6社 | 続 | 上郡ー佐用 | |
6社 | 続 | 上郡ー智頭 | 特急「スーパーはくと」「スーパーいなば」直通 | |
6社 | 続 | 佐用ー智頭 | ||
土佐くろしお鉄道 | 6社 | 続 | 窪川ー若井 | JR予土線方面の接続 |
ネット予約サービス「えきねっと」で申し込んだきっぷの受け取りに際し、上表に示した区間に関しては、JR東日本以外の駅であっても受け取れます(「えきねっと」受取可能駅であることが前提ですが)。JR6社とも通過連絡運輸の取り決めを結んでいるため、取扱上制限が生じないためです。
整備新幹線の開業によって分断された新幹線とJR在来線を結ぶ第三セクター会社の区間を通過するパターンが多いことが分かります。
ローカルな通過連絡運輸設定区間
一部のJR会社だけが取り決めを結んでいるような、限られた地域内での通過連絡運輸の設定も、多く見られます。このケースでは、設定があるJR会社の駅でしかきっぷを買えない点に留意してください。
ローカルな通過連絡運輸の設定に関しては、すべての鉄道会社を把握するのは困難です。そのため、主な鉄道会社のみを取り上げた点をご了承いただきたいと思います。
鉄道会社名 | 適用会社 | 連続 | 接続駅 | 備考 |
青い森鉄道 | 東日本 | 八戸ー青森 | ||
北海道・東日本 | 盛岡ー目時ー青森 | |||
IGRいわて銀河鉄道 | 北海道・東日本 | 盛岡ー目時ー青森 | ||
えちごトキめき鉄道 | 東日本 | 直江津ー妙高高原ー長野 | ||
北越急行 | 東日本・東海 | 続 | 六日町ー十日町ー犀潟 | |
鹿島臨海鉄道 | 東日本 | 水戸ー鹿島サッカースタジアム | 東京近郊区間相互間 | |
東京メトロ | 東日本 | 中野ー西船橋 | 東京近郊区間相互間 | |
東日本 | 北千住ー西日暮里 | 東京近郊区間相互間 | ||
しなの鉄道 | 東日本 | 小諸ー篠ノ井 | ||
東日本 | 長野ー豊野 | 快速「おいこっと」直通 | ||
東日本 | 長野ー妙高高原ー直江津 | |||
愛知環状鉄道 | 東海 | 続 | 岡崎ー高蔵寺 | |
JR東海交通事業 | 東海 | 枇杷島ー勝川 | ||
あいの風とやま鉄道 | [除]四国・九州 | 富山ー高岡 | ||
[除]九州 | 富山ー倶利伽羅ー津幡 | |||
IRいしかわ鉄道 | [除]東日本・北海道 | 続 | 金沢ー倶利伽羅ー高岡 | |
近畿日本鉄道 | 東海・西日本 | 続 | 鶴橋ー松阪 | |
南海電気鉄道 | 西日本 | 新今宮ー橋本 | 大阪近郊区間相互間 | |
福岡市地下鉄 | [除]東日本・北海道 | 博多ー姪浜 | ||
松浦鉄道 | 九州 | 有田ー伊万里 |
東京都心部の地下鉄東西線・千代田線については、このカテゴリーに含まれます。
しなの鉄道に関しては、JR信越本線を通過する場合に前後のしなの鉄道線の営業キロを通算する特例があります(規則第43条第2項)。JRと社線の関係が逆転した、いわば逆バージョンです。
まとめ
列車の運行区間の途中に他の鉄道会社線を通過する場合における運賃・料金計算の特例が「通過連絡運輸」と呼ばれています。
乗車区間が他の鉄道会社線にまたがる場合、本来は各社の乗車区間ごとに運賃・料金計算を打ち切るべきです。しかし、いつの間にか他社線を通過していたようなケースでは、そのような計算方が結果的にユーザーの負担となり、合理的とは言えません。そのため、この特例があるわけです。
通過連絡運輸の取り決めが結ばれている区間に限り、他鉄道会社線によって分断された前後の区間の営業キロ・擬制キロ・運賃計算キロを通算できます。その結果、前後の区間で運賃・料金計算を分割するよりも金額が安くなる効果があります。
前後の乗車区間の運賃・料金をそれぞれ算出してからそれらの金額を合算するのではなく、営業キロを通算してから全体の運賃・料金額を算出する点に注意が必要です。
通過連絡運輸の特例を受けるには、紙のきっぷ(普通乗車券)をあらかじめ購入します。ネット予約サービスでも購入できる場合がありますが、ルールが複雑なため、駅窓口で購入できればスムーズでしょう。
通過連絡運輸の設定には、JR6社共通の全国的なものと、一部のJR会社に限定されたローカルなものがあります。対象区間や接続駅が細かく設定されているため、特例の適用を受ける場合には確認が欠かせません。
この記事を最後までお読みいただき、ありがとうございました!
参考資料
● 旅客鉄道株式会社 旅客連絡運輸規則 第43条(中間に連絡会社線又は旅客会社線が介在する場合における旅客会社線又は連絡会社線の営業キロ、擬制キロ又は運賃計算キロの通算)2024.11閲覧
● JR東日本ウェブサイト「きっぷあれこれ」 2024.11参照
当記事の改訂履歴
2024年11月15日:当サイト初稿
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