JR九州「片道デジタルきっぷ(長崎・宮崎エリア)」購入方法・利用体験【実証実験】

浦上駅改札口 デジタルきっぷ

JR九州では、鉄道分野におけるデジタルきっぷの実証実験が行われています。JR九州管内の中でも、長崎エリアおよび宮崎エリアにこのサービスが展開されています。

当該エリアで対象になっているのは、現在主流のデジタルフリーきっぷではなく、発駅と着駅が特定された普通片道乗車券です。紙のきっぷが幅を利かせている中、普通片道乗車券がデジタル化されるのは先進的な動きです。

そのような状況下でのデジタル普通片道乗車券の展開に非常に興味を持ち、筆者も長崎に出かけて実際に使用してみました。QRコードを利用した本格仕様のデジタル乗車券は、まだまだ珍しいです。

「よか旅 Signal.com」という専用のウェブサイトに会員登録した上で、乗車する前に決済を行います。交通系ICカードに比べると、どうしても手間がかかります。

この記事では、JR九州長崎エリアおよび宮崎エリアで実証実験中のデジタル普通片道乗車券「JR九州片道デジタルきっぷ」に関する概要および背景をご説明します。そして、このデジタルきっぷを実際に使用して得た知見を、皆さまと共有したいと思います。

この記事を読むと分かること
  • JR九州片道デジタルきっぷ(長崎・宮崎エリア)の詳細
  • QRコード付きデジタル普通乗車券の使い勝手
  • 普通乗車券のデジタル化のメリット・デメリット

QRコードを利用したデジタル普通乗車券の先進さ

引用元:「よか旅 Signal.com」ウェブサイト

デジタルフリーきっぷの中には、QRコードを改札口で読み取らせるタイプのものが現れています。しかし、その画面を有人改札で駅員に提示するタイプが、現状では大多数です。

その中で、JR九州の長崎エリアにデジタル普通片道乗車券が登場しました。改札口でQRコードをかざし(またはQRコードを読み取り)、使用状況を記録できます。今回の実証実験時点では、QRコードを使用した普通乗車券が導入されているケースはほとんどなく、先進的な取り組みです。

JR九州の長崎エリアでは、交通系ICカード「SUGOCA」が利用できます。しかし、利用エリアがJR大村線竹松駅以南と狭く、エリアの全域(佐世保駅)まで到達していません。その状況下で、このデジタル乗車券がエリア全駅に展開されているのは、注目に値します。

ユーザーがこのデジタル乗車券を利用する場合、専用ウェブサイトにて会員登録した上で、乗車するたびにクレジットカードで運賃を決済します。発駅と着駅を指定するとそれに応じた運賃額が表示される点が、紙のきっぷと同じです。

乗車する前にきっぷを購入する点では、デジタルきっぷと紙の普通乗車券と共通していますが、それぞれ一長一短があります。

会員登録し、自己操作できっぷを買うまで煩雑です。ただし、いつでもどこでも買えるのが、デジタルきっぷならではのメリットと言えます。

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JR九州長崎・宮崎エリアにおけるデジタルきっぷ実証実験

長崎本線普通列車YC1

JR九州長崎エリアにてデジタルきっぷを展開することが2023年3月に同社から発表され、同時にサービスが開始しました。また、宮崎エリアでも2024年2月よりサービスが始まりました。この動きは実証実験ですが、終了時期は特に発表されていません。

デジタルきっぷの概要・特長

JR九州長崎エリアおよび宮崎エリアの各駅間で利用できる普通片道乗車券が「JR九州片道デジタルきっぷ」として発売されています。それは、スマートフォンを媒体としたデジタルきっぷで、交通系ICカード「SUGOCA」とは全く別のものです。

このデジタルきっぷは、交通インフラ機器メーカーの日本信号株式会社が開発・運営する「よか旅 Signal.com」ウェブサイトが基盤です。このサイトは、今のところ「JR九州片道デジタルきっぷ」専用です。

このきっぷの特長は、ユーザーが利用区間を指定する都度、運賃が算出される点です。ネット予約サービスの運賃計算機能とQRコードによる乗車券機能が合体していると考えると分かりやすいと思います。

現在、デジタルきっぷといえば、区間が固定の乗車券もしくはフリー乗車区間があらかじめ設定されたフリーきっぷが一般的です。そのため、ユーザーのニーズに沿ったデジタルきっぷをオンデマンドで発行できるシステムは数少ないです。

実証実験の背景

この動きの背景としては、行政と交通事業者が推進する「MaaS(マース)」を普及させるための実験という意味合いがあります。今回の取り組みは、国土交通省が進める「九州における広域MaaS推進事業」の一つに位置づけられています。

きっぷのデジタル化(DX)が進むと、交通事業者にとっても出札業務の合理化につながります。

対象エリア(長崎エリア)

今回の実証実験での利用対象エリアは、JR長崎本線長崎駅(長崎県長崎市)から諫早駅(長崎県諫早市)を経て、佐世保駅(長崎県佐世保市)に至る各駅(32駅)です。

引用元:JR九州長崎支社ウェブサイト

交通系ICカードSUGOCAの長崎エリアが、長崎駅から竹松駅(長崎県大村市)までの区間に限られていることから、今回のデジタルきっぷの利用エリアの方がより広いことが分かります。

対象エリア(宮崎エリア)

宮崎県内にも実証実験の範囲が広がり、宮崎駅(宮崎県宮崎市)を中心とした近郊の駅もこのサービスの対象となっています。

このサービスが利用可能な駅は、日豊本線高鍋駅(宮崎県高鍋町)から宮崎駅を経て、日南線青島駅(宮崎県宮崎市)までの区間に所在する各駅および宮崎空港駅(宮崎県宮崎市)です。

SUGOCA宮崎エリアが日豊本線佐土原駅(宮崎県宮崎市)から日南線田野駅(宮崎県宮崎市)までの区間および宮崎空港駅に限られていて、片道デジタルきっぷの利用エリアの方が長崎エリア同様広いです。

近距離区間におけるチケットレス乗車の媒体として交通系ICカードが有効か、QRコードを利用するタイプのデジタル乗車券が有効か、実証実験で試されるところです。

購入方法・運賃

ユーザーが所持するスマートフォン上でオンライン購入するため、駅では発売していません。きっぷを購入するとQRコードが発行されるため、紙のきっぷを駅で引き取る必要はありません

デジタルきっぷのねだんは、駅で購入する紙のきっぷと同額です。決済した当日のみ有効で、途中下車ができない点は紙のきっぷと変わりありません。

このデジタルきっぷを購入するための詳しい手順は、筆者の体験として後述します。

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JR九州片道デジタルきっぷのメリット・デメリット

浦上駅駅名標

「JR九州片道デジタルきっぷ」は、スマートフォンが媒体のデジタルきっぷです。ネット予約システムと同様の運賃計算機能を備えた、QRコード付きデジタルきっぷのメリットおよびデメリットには、次のようなことが考えられます。

メリット

● いつでもどこでも買える

このサービスの対象駅には無人駅が多く、駅できっぷを購入できないことがあります。手元にあるスマホではいつでもどこでもきっぷを買えるので、きっぷを用意できない不安から解放されます。

● リピート購入に強い

「よか旅 Signal.com」サイトにおいては、同じ区間のリピート購入には機能的に対応していません。ただし、一度会員登録しておけば、スマートフォン上で手軽にきっぷを購入できます。

● きっぷの紛失の心配がない

紙のきっぷの場合、紙片そのものを紛失したらきっぷを買いなおす必要があります。しかし、鉄道会社のサーバー上にあるデジタルきっぷは、ユーザーにとっては紛失する心配がありません。

デメリット

● 現金決済ができない点

きっぷの決済方法は、クレジットカードでのオンライン決済に限られます(公式には推奨されていませんが、筆者が利用した限り、デビットカードやプリペイドタイプのクレカが使用可)。このデジタルきっぷに限りませんが、デジタル環境における代金決済の仕組みには課題があります。

● 通信環境・スマホの電池切れ

JR九州長崎エリアにはトンネルや海岸を走る区間が多く、携帯通信のための環境が万全ではありません。デジタルきっぷを表示するためには安定した通信環境が必要なため、位置によっては表示が困難なことを懸念します。

● 近距離きっぷを買うための操作の煩雑さ

このデジタルきっぷは、会員登録した上で乗車前に都度購入操作をします。そして、スマートフォンの画面に表示されるQRコードをリーダーにかざしたり、駅に掲示されたQRコードをカメラで読み込みます。紙のきっぷや交通系ICカード、クレカのタッチ決済に比べて操作に手間がかかるため、近距離の片道乗車券の媒体として適切であるか、検討を要すると思います。

それでは、デジタルきっぷを実際に利用した体験をご紹介します!

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デジタル片道乗車券の使用方法・使用体験

列車に乗車するまでに、デジタルきっぷの会員登録・購入操作を行った上で、QRコードを駅に設置されたリーダーに読み込ませました。それらの細かな流れを、一つずつご説明します。

「よか旅 Signal.com」ウェブサイト会員登録

デジタルきっぷを購入するためには、事前に「よか旅 Signal.com」ウェブサイトへの会員登録が必要です。まず、当該サイトをスマートフォンで開きます。

会員登録の際、メールアドレス・氏名・電話番号の入力が必要になります(年代・地域は任意)。メール認証を行い、入力事項に問題なければ、登録完了です。

引用元:「よか旅 Signal.com」ウェブサイト

サイト上での購入操作

会員登録が済んだら、いよいよきっぷを購入します。トップページにある[チケットの購入]を押します。

引用元:「よか旅 Signal.com」ウェブサイト

現在購入できるきっぷは「JR九州片道デジタルきっぷ」のみです。[チケットの購入]を押します。

引用元:「よか旅 Signal.com」ウェブサイト

発駅・着駅および人数を入力します。入力が済んだら[決定]を押します。なお、複数名のきっぷを購入した場合、同一行動する必要があります。

引用元:「よか旅 Signal.com」ウェブサイト

購入するきっぷの内容および金額が表示されます。問題なかったら[確認]を押します。

引用元:「よか旅 Signal.com」ウェブサイト

決済手段はクレジットカード(VISA・Master)のみです。公式には推奨されていませんが、デビットカードやプリペイド式のクレカでも決済自体は可能です。クレカ番号と有効期限を入力し[支払い]を押します。ここでクレカを保存すると、次回以降は入力の必要がありません。

引用元:「よか旅 Signal.com」ウェブサイト

購入完了画面が表示されます。乗車する際に駅で提示するのは購入完了画面ではなく、QRコードが表示された画面です。

引用元:「よか旅 Signal.com」ウェブサイト

購入完了時に、完了した旨のメールが届きます。領収書は発行されず、メールがその代わりとなります。

駅でのQRコードの読み込み操作

駅の改札口に着いたら、QRコードが表示されたきっぷの画面をスマートフォン上に出します。スクリーンショットではなく、Webブラウザで表示します。

引用元:「よか旅 Signal.com」ウェブサイト

有人駅の改札口には、QRコードリーダーが設置されています。長崎エリアには「よか旅 Signal.com」だけではなく、MaaSアプリ「My Route」も導入されています。両者のQRコードリーダーが一体となっています。

改札口に入場する際、「のる」と書かれたリーダーにスマートフォンの画面をかざします。

マイルートQRコードリーダー

着駅の改札口では、「おりる」と書かれたリーダーに同じ画面をかざします。

マイルートQRコードリーダー

無人駅の様子を直接目で確認できませんでしたが、駅に掲示されているQRコードをスマートフォンのカメラで読み取ります。

サイト上での使用履歴の確認

デジタルきっぷの購入履歴および各きっぷの使用状況を、「よか旅 Signal.com」サイト上で逐一確認できるようになっています。

トップ画面右上にあるメニューボタンから、購入履歴を選択します。すると、これまでに購入したきっぷの一覧が表示されます。

引用元:「よか旅 Signal.com」ウェブサイト

各々のステータスを表示できます。きっぷの発行・入場・出場がそれぞれ履歴として保存されます。

引用元:「よか旅 Signal.com」ウェブサイト

変更・払いもどし

紙のきっぷと異なり、購入後の乗車変更には対応していません。変更が必要な場合、払いもどします。払いもどしには手数料がかかります

ここからは、筆者の個人的な意見が含まれます。

まとめ・筆者の私見

浦上駅改札口

近距離きっぷをQRコード付きのデジタルきっぷとして発行する試みである「JR九州片道デジタルきっぷ」。JR九州長崎エリア(2023年3月より)および宮崎エリア(2024年2月より)において実証実験中です。

日本信号株式会社が開発した「よか旅 Signal.com」ウェブサイト上であらかじめデジタルきっぷを買ってから、列車に乗車する形です。発駅と着駅を指定して運賃計算が行われる点が、ネット予約サービスと同じ点です。

このサービスを利用するには、会員登録した上で購入操作をスマートフォンから行います。決済手段はクレジットカードのオンライン決済のみですが、デビットカードやプリペイド式クレカも使用できるため、それほどハードルは高くありません。

むしろ、近距離きっぷを買うのにこんなにも手間がかかるのだとユーザーに感じさせてしまうこと自体がハードルです。JR九州長崎エリアの大半は、すでに交通系ICカード「SUGOCA」エリアです。交通系ICカードの手軽さに比べると、どうしてもデジタルきっぷの重さを感じざるを得ません。

システムの導入コストを節約できる点が、鉄道会社側にとってのメリットと考えられます。これからきっぷのデジタル化を始めようとするエリアであれば、初期コストの面でデジタルきっぷに魅力があります。

しかし、すでに交通系ICカードシステムが構築されたエリアでQRコード付きデジタルきっぷを重ねて展開しても、あまり意味がないように思います。

この記事を最後までお読みいただき、ありがとうございました!

参考資料 References

● JR九州ニュースリリース「乗降駅を選択して運賃計算を行うデジタル乗車券を購入・利用できるサービスの実証実験」 2023.3.09付/2024.01.24付

ニュースリリース | JR九州
JR九州のニュースリリースに関するページです。

● 九州における広域MaaS推進事業 (mlit.go.jp) 2023.12閲覧

https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/transport/content/001515626.pdf

改訂履歴 Revision History

2024年5月06日:初稿 修正

2024年02月27日:初稿 修正

2023年12月04日:初稿

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