JR北海道ネット限定割引「特急トクだ値」価格が変動制に~価格の確認方法と購入の仕方を解説~

特急北斗号札幌駅にて ネット予約

JR東日本・北海道管内の列車を対象に発売されているネット限定割引料金「トクだ値」は、安価で優れた商品です。便利に活用できるため、筆者も愛用しています。そんな料金の価格設定に変化が及んできました。

トクだ値の価格設定は従来固定で、設定がある区間については通年で同じ価格でした。時期によって発売席数に変動があるとはいえ、値段はいつでも固定で、ユーザーにとって利用しやすいことに違いありません。

そんな中、JR北海道管内で発売される「特急トクだ値」に、イールドマネジメントシステム(収入管理の仕組み)が導入されました。これは、2024年3月ダイヤ改正における割引きっぷ再編の一環です。この仕組みでは、発売価格や発売席数が発売時期や混雑予測に応じて動的に変化します。

鉄道会社側にとっては収入が最適化する一方で、ユーザーにとってはどのような影響があるか、注視する必要があります。

混雑が予想されれば高くなり、空いていれば安くなるという料金の仕組みが、鉄道運賃にもいよいよ導入されました。ユーザーにとっては、割引きっぷを手軽に購入しにくい状況になりました。

この記事では、JR北海道管内におけるネット限定割引料金「特急トクだ値」の料金設計の変更について、詳しく説明します。その基本となるイールドマネジメントシステムについても、概要に触れたいと思います。

この記事を読むと分かること
  • イールドマネジメントとダイナミックプライシング、シーズナリティとの関係
  • 予想される混雑度合いによって割引きっぷの値段が変動すること
  • 割引きっぷを乗車当日に購入できないこと

JR北海道管内における「トクだ値」料金設計の変更

札幌駅発車標

JR東日本・北海道のネット予約システム「えきねっと」のみで発売される限定割引料金が、「特急トクだ値」です。

発売時期によって、料金種別および料金の割引率が変わります。

  • 「特急トクだ値14」乗車1か月前10時ー14日前23時50分
  • 「特急トクだ値1」乗車13日前ー前日23時50分

これらの料金の特長は、値段が各種別ごとに通年で固定なことでした。料金が設定された列車では料金表が公開されており、区間ごとに値段が決まっています。

従来固定価格だった設定金額にイールドマネジメント(収入管理)が導入され、2024年3月から変動価格になりました。

例えば、特急「北斗」号で札幌駅から函館駅までの区間を利用する場合を考えましょう。列車の運行時期や需要度合い、きっぷの購入日によって、[30%引きの6,590円]から[10%引きの8,490円]まで値段が変動します(無割引の所定価格は9,440円)。

また、需要に応じて発売席数が変動します。従来は需給に応じて発売席数が変動することはあっても、値段そのものが変動することはありませんでした。そのため、鉄道料金で値段が変動するようになったことは、非常に画期的なことです。

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イールドマネジメントとシーズナリティの関係

運輸機関や宿泊施設においてイールドマネジメントを行う際、ダイナミックプライシングの手法で価格を設定することが多いです。そのような場面では、需要を予測するためシーズナリティが考慮されます。これらの要素には、密接な関係があります。

イールドマネジメント

イールドマネジメント(Yield Management)は、需要と供給の最適化を通じて収益を最大化する仕組みであり、「レベニューマネジメント」とも呼ばれます。これは、米国の航空会社や宿泊施設で最初に導入されました。

このシステムは、主に運輸業界や観光業界で使用され、需要の変動が大きいという特性に対応します。例えば、航空便の座席やホテルの部屋は在庫として取っておけないため、売り切るために価格を最適化します。需要が伸びるピークシーズンには高い価格を設定し、需要の低いショルダーシーズンには価格を引き下げ、これによって収入を最大化します。

よく「書き入れ時」と言われますが、ピークシーズンに高い料金を設定することで一気に稼ぐことができる時期を指します。

シーズナリティ

シーズナリティ(Seasonality)は、季節や時期による需要の増減を指します。例えば、日本において需要が高まる時期はGWやお盆、年末年始などであり、価格が上昇します。これに対して平日や需要の低い時期には価格が下がります。

イールドマネジメントとシーズナリティは密接に関連しています。シーズナリティによる需要の変動を考慮し、イールドマネジメントによって価格やサービスの供給量を調整することで、需要の変動に柔軟かつ効果的に対応できます。

また、これらの要素を考慮して動的に価格設定することを「ダイナミックプライシング」と言います。これらの手法を組み合わせることで、運輸機関や宿泊施設は最適な収益を達成できます。

日本の鉄道会社においてはこれまで規制が強かったため、変動価格制の導入がなかなか進みませんでした。そんなわけで、今回JR北海道がイールドマネジメントを導入したことは、先進的な取り組みです。

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JR北海道における「トクだ値」料金設計変更の詳細

特急北斗号普通車車内

ここでは、JR北海道管内におけるきっぷ発売の変更に関する詳細を説明します。

割引きっぷの体系が変更された対象列車

北海道内を走る一部の特急列車について、2024年3月から全車指定席化されました。対象となる列車は、次の通りです。

  • 「北斗」号(札幌ー函館)
  • 「すずらん」号(札幌ー室蘭)
  • 「おおぞら」号(札幌ー釧路)
  • 「とかち」号(札幌ー帯広)

いずれの特急列車も北海道内の主要都市を結び、一定の需要を見込めます。

全車指定席化に伴って自由席が廃止され、同時におトクなきっぷの発売がほぼ終了しました。指定席の割引きっぷは「トクだ値」に一本化され、駅で割引きっぷを購入できなくなりました

ネットで事前にきっぷを購入しなければならないのは、筆者の想定以上に影響が大きいことです。

「特急トクだ値」のしくみ

ネット限定発売の「特急トクだ値」は、事前購入型の割引きっぷです。あらかじめ旅行の予定が決まっていないと、きっぷを割引で購入できないことを意味します。

● 割引のしくみ

JR東日本・北海道管内で発売されているネット割引「トクだ値」は、長い間発売されている優れた商品です。特急券と乗車券が一体となった料金であることが基本でありながら、近年では特急料金部分のみ割引の商品(在来線チケットレス特急券)が登場しています。

今回お話ししているJR北海道管内の「特急トクだ値」は、前者の[特急券+乗車券]のセット商品です。乗車券部分と特急部分がそれぞれ、一定の割引率をもって割引されます。

従来は、購入時期だけで割引率が決定していました。乗車日の14日前までであれば概ね30%引きの「お先にトクだ値」、乗車日の前日までであれば概ね10%割引の「えきねっとトクだ値」です(2024年3月以降商品名称が変更されています)。通年同額で、時期による割引率の変動はありませんでした。

今回導入されたのは、購入時期と需要予測によって割引率が変動する仕組みです。このメカニズムは前述した通りですが、需要が見込まれる場合は割引率を下げて、需要が見込めない場合は割引率を上げて販売を促進しようとするものです。

● 割引率の変動の仕方(値段の決まり方)

JR北海道管内における「特急トクだ値」の価格変動については、JR北海道から開示された下図がとても分かりやすいです。

トクだ値価格変動イメージ
引用元:JR北海道ニューズリリース

列車が運行される時期や時間帯によって、各列車の予測乗車率が決まります。予測乗車率が高ければ設定価格は高く、逆に予測乗車率が低ければ設定価格は低くなります。

後述する通り、今のところは各列車に対して「特急トクだ値14」の設定価格が1つ、「特急トクだ値1」の設定価格が1つ設定されています。

そして、きっぷを購入する時期によって、いずれかの設定価格が適用されるという形です。

混んだ列車ほど値段が高く、間際に購入するほど値段が高くなると言えます。

航空運賃のように予約クラスが設定され、値段が細かく変動する状況は、JR北海道のトクだ値においては今のところ確認できていません。

● 発売箇所・購入期限

ネット限定発売です。購入期限は以下の通りですが、発売席数限定です。繁忙期にはまれに売り切れる場合があるので、予定が決まったら早めに購入することをおススメします。

  • 特急トクだ値14:乗車14日前の23時50分まで
  • 特急トクだ値1:乗車前日の23時50分まで

駅では購入できない点に留意したいです。

● 値段の確認方法

列車ごとに設定価格が個別に定められるわけですが、その割引率は料金表では確認できません。えきねっとで実際に予約する時、料金の選択画面で割引率が表示されるという形です。

ネット限定発売なので、駅では確認できません。

● 乗車変更・払いもどし

割引きっぷであることから、乗車変更や払いもどしには一定の制限があります。ここでは、概要のみ説明します。

乗車変更に関しては、きっぷの予約購入後、紙のきっぷを受け取ったかどうかで扱いが大きく変わります。きっぷの受け取り前はネット上で自由に変更できますが、受け取り後は変更できなくなります。

クレジットカードでオンライン決済を行い、乗車日の直前まできっぷを受け取らないことをおススメします。

きっぷを受け取る前の払いもどしは、きっぷ1枚につき一律320円の手数料がかかります。しかし、きっぷを受け取った後は、割引率分のキャンセル料(払戻手数料)がかかります。割引率が高いきっぷを安く買う場合ほど、キャンセル料が高くなるので要注意です。

きっぷを実際に買った体験を、ここで共有します!

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実際に「特急トクだ値」料金のきっぷを購入してみた

JR北海道話せる券売機
紙のきっぷを指定席券売機で受け取り

これまでご説明した内容を実感していただくため、特急「北斗」号のきっぷを特急トクだ値料金にて実際に購入しました。なお、今回購入したきっぷは、期間限定で提供されていた「特急トクだ値スペシャル21」であることを先にお断りしておきます。

ネット上での購入操作

ネット予約サービス「えきねっと」の会員登録を済ませた上で、購入するたびにログインして購入のための操作を自分で行います。

ここでは、札幌駅から苫小牧駅ゆきのトクだ値を、GW直前の4月25日(木)に検索した結果を設例にしたいと思います。

えきねっと上で列車を検索すると、購入可能な料金の一覧が座席の設備ごとに表示されます。この画面では、自由席の表示がないことがお分かりでしょう。

引用元:JR東日本えきねっとウェブサイト

筆者が検索した限り、乗車日ごとの個々の列車によって、割引率が以下の通り変動していました。

【札幌駅→苫小牧駅:2024/4/25(木)検索】

乗車日割引率(北斗4号)割引率(すずらん10号)料金種別備考
4/26(金)15% ***特急トクだ値1
5/01(水)10%35%特急トクだ値1GW連休中
5/03(金)10%35%特急トクだ値1GW連休中
5/08(水)15%35%特急トクだ値1
5/11(土)30%45%特急トクだ値14
5/19(日)60%60%特急トクだ値スペシャル

ゴールデンウィーク直前に検索した結果、GW中のピークシーズンには割引率が低い一方、GWを過ぎたショルダーシーズンには割引率がぐっと上昇していました。割引率の変動の仕方は筆者が想定していたよりもマイルドで、運用がまだこなれていない印象を持ちました。

余談ながら、札幌駅から苫小牧駅までの区間では、在来線チケットレス特急券の設定もあります。しかし、乗車券との合算額で見ると、乗車券と特急券がセットの「特急トクだ値」には価格面で及びません。

駅でのきっぷ受け取り

JR北海道管内の「トクだ値」は、一部を除き紙のきっぷです。基本的にはチケットレスでは乗車できず、乗車する前に駅で紙のきっぷを受け取る必要があります

その際は、駅の指定席券売機または窓口で受け取ります。JRE POINTを貯めている場合、指定席券売機で受け取るとポイントが貯まります。

札幌駅から苫小牧駅ゆきトクだ値特急券

受け取った紙のきっぷの様式は、このような感じです。券面上に割引率が表示されています。

札幌駅から苫小牧駅までの「特急トクだ値スペシャル21」の値段は、所定運賃料金の6割引きで、1,340円でした。信じられないことに普通列車を利用した場合の運賃よりも安い価格で提供されていました。ただし、予定が3週間前に決まることはまれで、購入には踏み切りにくいでしょう。

以下の文章には、筆者の個人的な意見が含まれます。

全車指定席化による影響~筆者の考察~

特急北斗号行先標

前述した特急列車が全車指定席化し、自由席がなくなったことで、着席機会が向上したことには違いありません。しかし、自由席がなくなったことで、当日急遽移動したいというニーズには、価格面で応えられなくなりました。

料金面でも、割引を受けるには事前に予定を決め、ネットでオンライン購入しなければならなくなりました。駅では割引きっぷを購入できなくなったため、当日気軽にサクッと飛び乗るわけにはいかなくなりました。

JR北海道管内の特急列車に関して、割引なしの所定運賃料金を払うとなると、かなり高額です。

この結果、特急「すずらん」号の乗車率に影響が出ました。JR北海道の社長会見にて、この列車の利用が前年よりも20%減少したことが報道されました。社長自ら、高速バスに客が流れたことを認めています。

JR北海道、特急全指定で利用伸び悩みも ネット予約に難 - 日本経済新聞
新型コロナウイルス5類移行に伴って回復基調にあったJR北海道の特急列車利用者数が伸び悩んでいる。背景の一つが3月に実施した主要4特急の全車指定席化。「すずらん」の場合、自由席の割引切符と指定席では価格差が2倍となるケースがあるなど、実質的な...

このような状況がみられることから、トクだ値の発売を展開していくには、発売席数を限定するのは現実的ではありません。また、きっぷの割引率を高くしないと、思ったように集客できないと思われます。

ネット利用がユーザーに普及した首都圏とは異なり、地方ではまだまだ途上です。JR北海道がネットでの発売に全面的に舵を切ったのはいささか強気で、時期尚早だったのではないでしょうか。

まとめ

特急北斗号札幌駅にて

JR北海道管内の一部の特急列車に適用されるネット限定割引「特急トクだ値」に、イールドマネジメントシステムが導入されました。あらかじめ決められた割引率ではなく、需要に応じて柔軟に割引率を変更するものです。この価格の設定方法は、いわゆるダイナミックプライシングと言われるものですが、鉄道運賃にも広がり始めた形です。

この手法は、航空運賃や宿泊運賃ではすでに広く導入されています。空席をうまくコントロールして、収入を最大化することを目指しています。

駅で買うきっぷに割引がなくなったことから、割引を受けるにはネット上でオンライン購入する必要があります。当日急な用事で飛び乗る場合、割引の恩恵を受けられず、負担を強いられます。

乗車日まで日にちがあいていればいるほど、きっぷを安く購入できます。また、繁忙期の日中時間帯に運行される列車の割引率が低く閑散期に運行される列車の割引率が高い傾向があります。

きっぷの発売方法が変更され、値段が相対的に高くなりました。そのため、ユーザーが高速バスに流れ、列車によっては乗車率が減少しました。

今回の見直しが北海道の鉄道輸送事情にフィットしたものであるかどうかは、運用した結果をじっくりと見守る必要があります。鉄道料金に変動幅を持たせるのは壮大な実験ですが、いささか時期尚早であったように思います。

この記事を最後までお読みいただき、ありがとうございました!

参考資料 References

● JR北海道 ニュースリリース「2024年3月ダイヤ改正にあわせた「おトクなきっぷ」のリニューアルについて」2024.01.23付

● JR東日本 えきねっとウェブサイト 2024.5閲覧

当記事の改訂履歴 Revision History

2024年5月19日:当サイト初稿

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