JR線の運賃は、実際に乗車する経路の距離によって計算するのが原則で、通常は遠くの駅に行くほど運賃が高くなります。したがって、手前の駅までの運賃が先の駅への運賃よりも高くなるということは、通常はあり得ません。
ところが、全国のJR線の中には、手前の駅までの運賃の方が高くなるという稀な区間が存在するのです。
山口県内を走る岩徳線は山陽本線の支線で、始点の岩国駅と終点の櫛ケ浜駅でそれぞれ山陽本線に接続します。一般的には支線の方が遠回りですが、山陽本線をショートカットする点で、岩徳線は全国的にも珍しい線区です。
この区間は経路特定区間(旅客営業規則第69条第9号)に指定されており、運賃計算上の特例が設定されています。そのため、山陽本線を走る直通列車に乗り続けた場合に手前の駅までの運賃が高くなるという逆転現象が見られるのです。
この区間の特殊性や、運賃計算が複雑になるカラクリに興味をお持ちではないでしょうか。

山陽新幹線新岩国駅・徳山駅間を通過する場合の運賃・料金計算が難解な理由は、岩徳線に関する特例が存在するからです。特例によって運賃が低廉になる効果があるのは、ユーザーにとってありがたいですね。
この記事では、山陽本線の支線である岩徳線をめぐる運賃計算上の特例を詳しく掘り下げ、運賃計算が複雑な理由を探っていきます。
山陽本線の支線には、岩徳線に類似した線区が他にもありますが、それらの区間についてもあわせてご紹介したいと思います。
- 乗車区間が岩国駅・櫛ケ浜駅間の一部の場合、経路特定区間特例は適用されないこと
- 運賃だけではなく、特急料金等の計算にも経路特定区間特例の適用を要すること
- 経路特定区間特例は強行規定であり、適用するかしないかを選択できないこと
JR岩徳線とは ~山陽本線をショートカットするローカル線~

中国地方の瀬戸内海沿いを走るJR山陽本線には、本線と支線が並行する区間が以下の3か所あります。
| 線区名 | 区間 | 営業キロ |
| JR赤穂線 | 相生駅・東岡山駅 | 57.4km |
| JR呉線 | 三原駅・海田市駅 | 87.0km |
| JR岩徳線 | 岩国駅・櫛ケ浜駅 | 43.7km |
いずれも山陽本線の駅から分岐し、山陽本線の別の駅に再び合流する線区です。2つの経路が並行する形となり、一方の経路が何らかの理由で不通になっても、もう一方が代替経路となります。
岩徳線と山陽本線の補完関係における特殊性
JR岩徳線は、山口県岩国市の中心駅岩国駅と山口県周南市にある櫛ケ浜駅を結ぶローカル線です。同駅間の営業キロは43.7kmで、地方交通線に区分されています。

この図を見ると分かるように、山まわりの岩徳線は、海まわりの山陽本線と補完関係にあります。
列車の運行区間である岩国駅・徳山駅間の営業キロおよび所要時間は、以下の通りです。
| 線区名 | 営業キロ | 所要時間 |
| 山陽本線(柳井駅経由) | 68.8km | 1時間10分 |
| 岩徳線(西岩国駅経由) | 47.1km | 1時間20分 |
岩徳線の営業キロの方が山陽本線柳井駅経由の営業キロよりもかなり短く、本来は岩徳線を進むのが合理的なはずです。
しかし、岩徳線の運行本数は山陽本線に比べて極めて少なく、広島駅方面や新山口駅方面への直通列車も設定されていません。
そのため、岩国駅以遠の各駅から櫛ケ浜駅以遠の各駅に向かうには、通常は同駅間を直通する山陽本線の普通列車を利用することになります。
岩徳線経由で旅行する際、距離が短いにもかかわらず岩国駅と徳山駅で2回乗り継ぐ不思議な状況が発生するのです。
経路特定区間に指定された歴史と背景
どうして、このような状況が生じたのでしょうか。当記事で岩徳線に注目する理由は、山陽本線との関係における歴史的な背景です。
距離の短い岩徳線は、1934年に山陽本線のメインルートとして全通しました。一方、海沿いの柳井駅まわりの区間は、一時期柳井線に格下げされました。
しかし、新設された山越えルート(現在の岩徳線)は急勾配やトンネルが連続し、戦時下の輸送量増大に対応できませんでした。そのため、1944年に勾配のゆるい柳井線が複線化されて、山陽本線に復帰しました。岩徳線は、わずか10年で再び支線となったわけです。

これは、岩国駅の片隅にある、岩徳線が発着するホームです。ここからは、1両編成の気動車がひっそりと発着しています。この様子からは、山陽新幹線の運賃計算にこの線区の距離を使用するとは想像さえつきません。
岩徳線をめぐる運賃計算方法の基本と例外

それでは、岩徳線が走る岩国駅・櫛ケ浜駅間を含む乗車経路に関する普通運賃の計算方法について、詳しく見ていきましょう。
乗車経路の距離に応じた運賃を算出(基本)
最初に、運賃計算上の特例を考慮せずに、基本的な運賃計算の過程をご説明したいと思います。
実際乗車する経路の営業キロを算出
JR線の運賃計算を行うに当たっての基本原則は、実際に乗車する経路の距離によって計算することです。これは、JR各社の運送約款である旅客営業規則第67条に規定されています。
第67条(旅客運賃・料金計算上の経路等)
旅客運賃・料金は、旅客の実際乗車する経路及び発着の順序によつて計算する。
様々な特例によって、実際に乗車する経路によらず運賃計算を行うケースがありますが、あくまでも乗車経路に応じた距離を基に運賃計算を行うのが原則であることを覚えておきたいです。
距離に賃率を乗じて運賃額を算出
また、JR線の運賃は、実際に乗車する区間のキロ程(営業キロ)にキロ当たりの単価(鉄道運賃においては「賃率」と言います)を乗じて求めることが原則です。この方法が旅客営業規則第77条他の条文によって定められており、「対キロ制」と呼ばれています。
第77条(幹線内相互発着の大人片道普通旅客運賃)
幹線内相互発着となる場合の大人片道普通旅客運賃は、次の各号により計算した額を合計した額とする。ただし、北海道旅客鉄道会社線、四国旅客鉄道会社線又は九州旅客鉄道会社線内発又は着若しくは通過となる場合を除く。
JR線の各線区は「幹線」と「地方交通線」に区分され、それぞれの賃率が定められています。幹線と地方交通線にまたがって乗車する場合の運賃計算に使用するのが、地方交通線の営業キロを換算した「運賃計算キロ」です。
岩国駅・櫛ケ浜駅間における基本的な運賃計算過程
ここで注意したいのが、岩徳線が地方交通線である点です。幹線である山陽本線は営業キロをそのまま計算に用いますが、岩徳線の場合は営業キロに10%を加算した換算キロ(運賃計算キロ)を用います。
以上の2つの原則から、ある駅に向かうための経路が2通りある場合、営業キロが短い経路を通れば運賃が安くなります。一方、遠回りすれば営業キロが長くなる分、運賃が高くなるわけです。
岩国駅・櫛ケ浜駅間における、運賃計算上の特例を適用する前段階の基本的な運賃計算は、以下の通りとなります。
| 線区名 | 営業キロ | 適用キロ | 運賃額 |
| 山陽本線経由 | 68.8km | 68.8km(原則通りの営業キロ) | 1,170円 |
| 岩徳線経由 | 43.7km | 48.1km(運賃計算キロ) | 860円 |
このように、運賃計算上の特例がなかったとしたら、山陽本線経由の運賃額は岩徳線経由の運賃額よりも相当高くなってしまいます。
運賃計算上の特例を適用(例外)
このように、交通の主流が山陽本線経由であるにもかかわらず、傍流である岩徳線経由よりも運賃が高額ということでは、決して合理的とは言えません。
そこで、実際に乗車する経路が山陽本線(柳井駅まわり)であっても、運賃・料金の計算経路を強制的に「岩徳線経由」に固定する特例が設けられました(旅客営業規則第69条第9号)。この特例に関しては、運賃のみならず、特急料金やグリーン料金等も対象に含まれることがポイントです。
第69条(特定区間における旅客運賃・料金計算の営業キロ又は運賃計算キロ)
第67条の規定にかかわらず、次の各号に掲げる区間の普通旅客運賃・料金は、その旅客運賃・料金計算経路が当該各号末尾のかつこ内の両線路にまたがる場合を除いて、○印の経路の営業キロ(第9号については運賃計算キロ。ただし、岩国・櫛ケ浜間相互発着の場合にあつては営業キロ)によつて計算する。この場合、各号の区間内については、経路の指定を行わない。
(9) 岩国以遠(和木方面)の各駅と、櫛ケ浜以遠(徳山方面)の各駅との相互間
[山陽本線 ○岩徳線]
運賃計算特例を検討するにあたっては、実際に乗車区間が岩国駅・櫛ケ浜駅間を通過するか、途中駅で発着するかを区別する必要があります。
岩国駅・櫛ケ浜駅間を通過する場合
岩国駅・櫛ケ浜駅間は、旅客営業規則第69条第9号に定められた経路特定区間です。
この駅間の相互発着である場合、もしくは通過となる場合、実際に乗車する経路にかかわらず岩徳線経由の運賃計算キロを用いて運賃計算を行います。
上述した原則的な運賃計算は、この特例によって以下のように修正されます。
| 線区名 | 営業キロ | 適用キロ | 運賃額 |
| 山陽本線経由 | 68.8km | 48.1km(岩徳線経由の運賃計算キロ) | 860円 |
| 岩徳線経由 | 43.7km | 43.7km(地方交通線の営業キロ) | 860円 |
岩国駅・櫛ケ浜駅間相互発着に限らず、岩国駅以遠の各駅(和木駅方面)と櫛ケ浜駅以遠の各駅(徳山駅方面)相互間であっても、岩徳線経由の運賃計算キロを適用する形です。
岩国駅・櫛ケ浜駅間の途中駅を発着する場合
注意すべきなのは、岩国駅・櫛ケ浜駅間の途中駅を発着する場合です。
規則69条が適用されるのは、あくまでも同駅間を通して乗車する場合であって、途中駅を発着する場合(両方の経路にまたがる場合も含む)は特例の適用対象外となる点を押さえる必要があります。
例えば、岩国駅・山陽本線下松駅間は特例対象外のケースに該当し、乗車経路通りの距離を基にして運賃計算を行います。
| 線区名 | 運賃計算キロ | 運賃額 | 備考 |
| 山陽本線経由 | 60.8km | 1,170円 | 柳井駅経由の営業キロを適用 |
| 岩徳線経由 | 52.7km | 990円 | 櫛ケ浜駅経由の運賃計算キロを適用 |
山陽本線経由の運賃1,170円が、1駅先の櫛ケ浜駅発着の運賃額860円を上回ることがお分かりでしょうか。

これは、岩国駅のきっぷうりばに掲示された運賃表です。この運賃表を見ると、下松駅までの運賃が1,170円、その先の櫛ケ浜駅までの運賃が860円であることが分かります。先の駅の方が運賃が安いことに、違和感を持つのではないでしょうか。
このように、実際の乗車区間に規則69条の経路特定区間が適用されるかどうかが、カギになります。まさに、手前の駅までの運賃が先の駅までの運賃よりも高くなるという逆転現象が生じるカラクリです。
なお、岩国駅・櫛ケ浜駅間は、大都市近郊区間には含まれていません。乗車経路通りに運賃計算を行う必要があるため、このような逆転現象がより可視化されるわけです。
経路特定区間における迂回乗車に関する規定

経路特定区間における運賃・料金計算の特例は、他経路を迂回乗車できることによって実効性が担保されます。
運賃・料金計算に用いる経路でない他経路を迂回乗車できることは、規則第158条第1項に定められています。
第158条(特定区間におけるう回乗車)
第69条の規定により発売した乗車券を所持する旅客は、同条第1項各号の規定の末尾に記載されたかつこ内の○印のない経路をう回して乗車することができる。
2 第69条第1項各号の区間内において2枚以上の普通乗車券を併用して乗車する旅客は、その券面に表示された経路にかかわらず、同号かつこ内の他方の経路を乗車することができる。ただし、他方の経路の乗車中においては、途中下車をすることができない。
この条文によって、遠回りの経路である山陽本線柳井駅まわりで岩国駅・櫛ケ浜駅間の乗車が可能です。
ただし、この区間を2枚以上のきっぷを併用して乗車する場合、山陽本線柳井駅まわりでの迂回乗車は可能であるものの、途中下車できません。

山陽本線と岩徳線をめぐる運賃計算上の特例を理解できたところで、岩国駅・櫛ケ浜駅間が関係するきっぷを見ていきましょう!
山陽本線経由のきっぷと岩徳線経由のきっぷを見る

これからご紹介するきっぷは、岩国駅・櫛ケ浜駅間の全区間を乗車するか、同駅間の途中駅を発着するかのいずれかになります。
券面上の経由欄からは見えない運賃計算特例の数々を見ていきましょう。
岩国駅・櫛ケ浜駅間を通過するきっぷ
山陽本線と岩徳線をめぐるきっぷの基本的なパターンは、岩国駅・櫛ケ浜駅間を通過するものです。分かりやすい例として、山陽本線(在来線)を経由する普通乗車券をお見せしたいと思います。
海田市駅から本由良駅ゆき普通乗車券

このきっぷは、山陽本線海田市駅(広島県海田町)から本由良駅(山口県山口市)ゆき普通片道乗車券です。
- 実際の営業キロ:169.4km 3,080円相当
- 運賃計算キロ:152.1km 2,640円
全区間山陽本線(在来線)経由であり、運賃額は大人2,640円です(本例は割引適用で1,320円)。
乗車経路に岩国駅・櫛ケ浜駅間が含まれているため、規則第69条第9号の経路特定区間特例が適用されます。この駅間の運賃計算には岩徳線経由の運賃計算キロが用いられるものの、経路は特定されません。また、山陽本線内の各駅もしくは岩徳線内の各駅で途中下車が可能です。
また、このきっぷには広島駅・徳山駅間が含まれており、選択乗車特例の対象でもあります(規則第157条第43号)。在来線の他、山陽新幹線にも乗車が可能で、新岩国駅で途中下車が可能です。
きっぷの有効期間にも、この特例が反映されています。第69条が適用される区間の有効期間の算出に用いるのは、運賃計算を行う経路の営業キロです(規則第154条第2項)。本例においても、岩徳線経由の営業キロ(43.7km)を用いて有効期間を算出します。
このきっぷの記載事項は至ってシンプルですが、実は運賃計算上の特例が多く適用されています。見た目以上に奥深い内容であることがお分かりではないでしょうか。
岩国駅発のきっぷ(岩徳線経由・山陽本線経由の比較)
岩国駅が発駅となる普通乗車券の中で、経路特定区間特例(規則第69条)が適用されるものと適用されないものを、それぞれご紹介します。
岩国駅から(陽)下松駅ゆき普通乗車券

このきっぷは、岩国駅から山陽本線下松駅(山口県下松市)ゆき普通乗車券です。
- 実際の営業キロ:60.8km 1,170円
- 運賃計算キロ:60.8km 1,170円
山陽本線柳井駅を経由するシンプルな乗車券であり、このきっぷに適用される特例はありません。
岩国駅から櫛ケ浜駅ゆき普通乗車券

このきっぷは、岩国駅から櫛ケ浜駅ゆき普通乗車券です。
- 実際の営業キロ:43.7km 860円
- 運賃計算キロ:地43.7km 860円
券面上には経由線区として岩徳線が記載されていますが、岩国駅・櫛ケ浜駅間を通過しているため、規則第69条の経路特定区間特例が適用されます。この特例が適用された場合、区間内の経路が指定されないことになっていますが、きっぷには運賃計算経路が明示されています。
券面に記載されている運賃計算上の経由線区にかかわらず、山陽本線を柳井駅まわりで迂回乗車することが可能です。
山陽本線まわりで乗車した場合、櫛ケ浜駅は下松駅の1駅先であるにもかかわらず、運賃額に310円分の逆転現象が生じます。
これは運賃規則の特例から生じる現象であって、決して不正ではありません。
徳山駅発のきっぷ(岩徳線経由・山陽本線経由の比較)
徳山駅が発駅となる普通乗車券の中で、経路特定区間特例(規則第69条)が適用されるものと適用されないものを、それぞれご紹介します。
徳山駅から南岩国駅ゆき普通乗車券

このきっぷは、徳山駅から南岩国駅(山口県岩国市)ゆき普通乗車券です。
- 実際の営業キロ:64.2km 1,170円
- 運賃計算キロ:64.2km 1,170円
券面上の経由欄には山陽本線と表示されており、柳井駅まわりであることが分かります。櫛ケ浜駅・岩国駅間を含んでいないため、運賃計算上の特例は適用されません。
なお、徳山駅から南岩国駅ゆきの普通片道乗車券を岩徳線まわりで購入すると、運賃計算キロ56.1km・990円となります。乗車経路が両線路にまたがるため、規則第69条の経路特定区間特例は適用されず、柳井駅まわりの列車には乗車できません。
徳山駅から岩国駅ゆき普通乗車券

このきっぷは、徳山駅から岩国駅ゆき普通片道乗車券です。
- 実際の営業キロ:47.1km 990円
- 運賃計算キロ:51.5km 990円
この経路においては櫛ケ浜駅・岩国駅間を通過しているため、規則第69条の経路特定区間特例が適用されます。
券面の経由欄には「山陽・岩徳」と表示されているものの経路が特定されないため、山陽本線柳井駅まわりの列車にも乗車可能です。
手前の南岩国駅までの運賃額が1,170円に対し、岩国駅までの運賃額が990円と金額に逆転現象が生じますが、不正ではないので安心してください。
山陽新幹線の運賃・料金計算に及ぼす影響

山陽本線・岩徳線をめぐる規則第69条の経路特定区間特例は、元々在来線に関するものでしたが、山陽新幹線が並行することで特例の適用方法がさらに複雑になりました。
岩国駅・櫛ケ浜駅間に設定された運賃計算上の特例が山陽新幹線にも適用されるため、並行区間である新岩国駅・徳山駅間を通ると、運賃・料金計算が一層複雑になるわけです。

この図を見ると分かるように、在来線の山陽本線岩国駅と山陽新幹線新岩国駅はかなり離れています。新岩国駅が位置するのは、岩国市の中心部から遠く離れた、錦川鉄道に近い山奥です。
山陽新幹線新岩国駅・徳山駅間に関する取り扱いについては、規則第69条第3項に規定されていますが、従来の条文では山陽新幹線に対応できないために追加されたと考えられます。
第69条(特定区間における旅客運賃・料金計算の営業キロ又は運賃計算キロ)
3 新岩国以遠(広島方面)の各駅と、徳山以遠(新南陽又は櫛ケ浜方面)の各駅との相互間(新幹線経由のものに限る。)における新岩国・徳山間の普通旅客運賃・料金は、第67条の規定にかかわらず、岩徳線岩国・櫛ケ浜間及び山陽本線櫛ケ浜・徳山間の経路の営業キロ(普通旅客運賃については、運賃計算キロ)によつて計算する。
新幹線の乗車区間に新岩国駅・徳山駅間が含まれる場合、岩徳線岩国駅・櫛ケ浜駅間および山陽本線櫛ケ浜駅・徳山駅間の営業キロ(料金)および運賃計算キロ(運賃)を基にして運賃・料金を計算します。
この計算方法による営業キロおよび運賃計算キロは、先ほど触れた岩国駅・徳山駅間の普通乗車券と同一です。
- 営業キロ:47.1km(新幹線自由席特急券は870円)
- 運賃計算キロ:51.5km(普通乗車券は990円)
この運賃・料金計算上の特例が山陽新幹線および東海道新幹線全体に及ぶため、この特例の影響が非常に大きいのです。

時刻表の東海道・山陽新幹線ページの冒頭には、このように営業キロと運賃計算キロが併記されています。規則第69条の経路特定区間特例を知らないと、この表記の意味は理解不能です。JR運賃・料金計算の敷居の高さを感じるのではないでしょうか。
山陽本線上の他の経路特定区間(第69条)および選択乗車区間(第157条)

当記事では、山口県の岩徳線をめぐる運賃・料金計算の複雑なカラクリをひも解いています。理解を深めるため、山陽本線上に存在する他の経路特定区間や選択乗車区間もあわせて見ていきましょう。
これから、広島県内を走る呉線と、兵庫県・岡山県にまたがる赤穂線に焦点を当てていきます!
呉線(三原駅・海田市駅間)における規則第69条の経路特定区間特例
JR呉線は、広島県内の瀬戸内海沿いを走る幹線で、三原駅(広島県三原市)から呉駅(広島県呉市)を経由し、海田市駅(広島県海田町)までの区間を結びます。

戦前には沿線に重要な軍事施設があったことから山陽本線と補完関係にあり、かつては他線区からの長距離列車が設定されていました。このような事情があり、経路特定区間(規則第69条第8号)に指定されたものと考えられます。
列車の運行区間である三原駅・海田市駅間の営業キロおよび所要時間は、以下の通りです。
| 線区名 | 営業キロ | 所要時間 |
| 山陽本線(西条駅経由) | 65.0km | 1時間05分 |
| 呉線(呉駅経由) | 87.0km | 2時間10分 |
呉線を経由する場合でも、運賃・料金の計算は山陽本線西条駅まわりで行います。岩徳線と同様に強行規定であるため、呉線経由で運賃・料金計算を行うことはできません。
山陽本線経由のきっぷを持っていれば呉線にも迂回乗車可能で、途中下車もできます。ただし、山陽本線の支線である呉線の方が遠回りの経路かつ所要時間が長いため、岩徳線のようなあからさまなトリックはありません。
赤穂線(相生駅・東岡山駅間)における規則第157条の選択乗車特例
JR赤穂線は、兵庫県播磨地方から岡山県東部にわたる瀬戸内海沿いを走る山陽本線の支線です。相生駅(兵庫県相生市)と東岡山駅(岡山市中区)を播州赤穂駅(兵庫県赤穂市)まわりで結び、地方交通線に区分されます。

赤穂線における他経路乗車に関して注目したいのは、岩徳線のような経路特定区間特例(第69条)が該当するのではなく、選択乗車特例(第157条第33号)が根拠である点です。赤穂線を迂回乗車できる特例に関しては、岩徳線や呉線とは根拠となる条文が異なることに留意しましょう。
列車の運行区間である相生駅・東岡山駅間の営業キロおよび所要時間は、以下の通りです。
| 線区名 | 営業キロ | 所要時間 |
| 山陽本線(和気駅経由) | 60.6km | 1時間05分 |
| 赤穂線(播州赤穂駅経由) | 57.4km | 1時間15分 |
赤穂線は選択乗車特例が適用されるため、運賃計算にあたっては任意の経路を用いることが可能です。基本的には運賃計算キロが短い山陽本線経由で運賃計算や発券を行いますが、赤穂線経由で運賃計算や発券を行うことも不可能ではありません。
いずれかの経路で運賃計算された普通乗車券を持っていれば、他方の経路を迂回乗車し、途中下車もできます。
まとめ

山口県内の岩国駅・櫛ケ浜駅間には、山陽本線(幹線)と岩徳線(地方交通線)の2つの経路があります。多くのユーザーは、運行区間が直通しており、かつ所要時間が短い山陽本線を利用しますが、岩徳線まわりよりも遠回りです。
近道の経路があるにもかかわらず遠回りな経路の営業キロを適用すると、ユーザーにとって不利益です。そのため、この区間は規則第69条の経路特定区間に指定されており、岩徳線まわりの運賃計算キロを用いて運賃・料金計算を行います。
この特例は、岩国駅・櫛ケ浜駅間相互発着であるか通過する場合に限って適用されます。両方の線路にまたがったり、この区間の途中駅発着となる場合は、特例の対象外です。
特例の対象となる区間と対象外となる区間が混在するため、手前の駅までの運賃が先の駅までの運賃よりも高くなるという逆転現象が生じます。
この特例は在来線のみならず、山陽新幹線新岩国駅・徳山駅間相互発着となるか通過する場合にも適用されます。この特例こそが、広島駅方面から新山口方面に向かう場合の運賃・料金計算が複雑怪奇となっている最大の要因です。
このようなトリックは他の経路特定区間や選択乗車区間には見られないため、岩徳線をめぐる運賃・料金計算上の特例には非常に目が惹かれます。
この記事を最後までお読みいただき、ありがとうございました!
参考資料
● 旅客鉄道株式会社 旅客営業規則
● 西日本旅客鉄道株式会社 ICカード乗車券取扱約款
当記事の改訂履歴
2025年12月20日:当サイト初稿


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