全国のJR線には、同一駅発着となる乗車経路が多数存在します。ある駅を出発し、周回経路を一周し、出発した駅に帰着するというパターンです。このことを、旅客営業規則上「環状線一周」の経路と言います。
その中でも、東京都心部にある神田駅・御茶ノ水駅・秋葉原駅を三角に結ぶ2.9kmの区間が、全国で最も距離が短い環状線一周経路です。
この経路を途中下車することなく乗車した場合の普通片道運賃は初乗りの大人150円ですが、一体どのようなきっぷを購入すればよいのでしょうか。
その疑問を解消するため、各駅を発着する普通乗車券と定期乗車券をそれぞれ購入してみました。

この区間を途中下車なしで乗車することはまれですが、乗車経路通りに普通乗車券を購入可能です。初乗り運賃の2倍を支払う必要はないと考えます。
この記事では、JR神田駅・御茶ノ水駅・秋葉原駅を結ぶ環状線一周経路の普通乗車券および定期乗車券をご紹介します。これらのきっぷに関する運賃規則をあわせて検討することで、理解を深めていきましょう。
- 初乗り運賃区間に収まる全国で唯一の環状線一周経路であること
- 普通乗車券・定期乗車券とも乗車経路通りの営業キロで運賃計算すること
- この経路についてはモバイルSuica定期券とすることはできないこと
神田駅・御茶ノ水駅・秋葉原駅を結ぶ経路の概要

まず、神田駅・御茶ノ水駅・秋葉原駅がどこにあり、これらの駅を結ぶ経路がどのようなものであるかを見ていきたいと思います。
神田駅・御茶ノ水駅・秋葉原駅の概要
神田駅、御茶ノ水駅および秋葉原駅は、いずれも東京都千代田区神田地区に位置します。いずれも、東京中心部のオフィス街です。また、秋葉原駅周辺はサブカルチャーの聖地で、観光客でにぎわいます。
神田駅(千代田区鍛冶町)
神田駅は東北本線および中央本線に属する駅で、以下の路線がそれぞれ別のホームから発着します。
- 山手線
- 京浜東北線
- 中央線快速
御茶ノ水駅(千代田区神田駿河台)
御茶ノ水駅は中央本線に属し、総武本線の始発駅です。以下の路線が方面別に同一ホームに発着します。
- 中央線快速
- 中央・総武線各駅停車
秋葉原駅(千代田区外神田)
秋葉原駅は東北本線および総武本線に属する駅です。以下の路線が直角に交差します。
- 山手線
- 京浜東北線
- 中央・総武線各駅停車
神田駅・御茶ノ水駅・秋葉原駅を結ぶ環状線一周経路
神田駅・御茶ノ水駅・秋葉原駅はいずれも隣接しており、列車に乗ったらすぐに到着します。これらの駅の位置関係は下図の通りです。各駅間を結ぶと三角形になることが分かります。

- 神田駅・御茶ノ水駅間(1.3km):中央本線
- 御茶ノ水駅・秋葉原駅間(0.9km):総武本線
- 神田駅・秋葉原駅間(0.7km):東北本線
これは紛れもない環状線一周経路で、全区間の営業キロはわずか2.9kmです。営業キロ3.0kmまでの初乗り区間に収まります。
経路の途中で列車を2回乗り換える形ですが、乗り換え時間を含めて一周わずか20分程度しかかかりません。
東京都内では、東急電鉄にも環状線一周となる経路があります(田園調布駅・自由が丘駅・大岡山駅を結ぶ環状線一周経路)。しかし、距離の短さでは、神田駅・御茶ノ水駅・秋葉原駅を結ぶ環状線一周経路に及びません。
環状線経路を一周するために購入すべき乗車券
この経路を途中下車することなくたどるには、一体どのような乗車券を購入すればよいでしょうか。ここでは、購入すべき乗車券の内容および根拠となる規定をご説明します。
交通系ICカードによるIC乗車
紙の乗車券を購入する前に、交通系ICカードで乗車できないかと考えるはずです。しかし、IC乗車に関しては、同一駅での入出場には対応していません。したがって、普通乗車券もしくは定期乗車券を購入する必要があります。
なお、JR東日本管内の有人駅においては「タッチでエキナカ」というサービスがあり、同一駅で入出場が可能です。しかし、このサービスはあくまでも入場券の代わりであるため、列車に乗車することはできません。
JR東日本における「タッチでエキナカ」入場サービスについては、以下の記事をぜひご一読ください。
普通乗車券
1回乗車する場合に必要なきっぷは、環状線一周経路となる普通片道乗車券です。
JR各社の運送約款である旅客営業規則第67条の規定によって、環状経路を一周して発駅に戻る場合、発駅で運賃計算を打ち切ります。その場合は普通片道乗車券を発売することになっており、往復乗車券は購入できません。
また、神田駅・御茶ノ水駅・秋葉原駅はいずれも大都市近郊区間に属します(規則第156条第1項第2号)。乗車経路が大都市近郊区間内で完結する場合、普通乗車券に関しては最短経路の営業キロをもって運賃計算し、途中下車はできません。
普通乗車券の買い方として、以下の2パターンが想定されます。
- 近距離券売機で最安運賃の金額式乗車券を購入
- 窓口で同一駅発着の片道乗車券を購入
金額式乗車券
上述した通り、神田駅・御茶ノ水駅・秋葉原駅間の環状線一周経路の営業キロは2.9kmと、初乗り運賃区間(営業キロ1-3km)に収まります。近距離券売機で初乗り区間の乗車券を購入します(2025年5月現在:大人150円)。
発駅からの金額が記載された片道乗車券を手にするはずです。同一駅発着となるため、出場する際自動改札を通れません。
一般式乗車券
駅窓口では、発駅名と着駅名が記載された一般的な片道乗車券を購入できます。この経路で発売されるのは、以下の3パターンです。
- 神田 ➡ 神田
- 御茶ノ水 ➡ 御茶ノ水
- 秋葉原 ➡ 秋葉原
金額は、上記の金額式乗車券と同じです。この買い方では、マルス券を入手できます。
定期乗車券
定期乗車券については、実際の乗車経路に基づいて運賃計算が行われます。普通乗車券とは異なり、大都市近郊区間の規定が定期乗車券には適用されません。普通乗車券と異なり、券面に記載された乗車経路外での大回り乗車ができないことに留意したいです。
この区間の定期乗車券に関しては同一駅発着となるため、モバイルSuicaを利用できません。駅窓口で磁気定期券もしくはSuica定期券(デポジット要)を選択します。
同一駅発着となる場合、通学定期を購入することは考えられず、通勤定期を購入する形です。神田駅・御茶ノ水駅・秋葉原駅間の環状線一周経路の定期運賃は普通運賃と同様、営業キロ1-3kmの初乗り区間に収まります(2025年5月現在:バリアフリー料金込み通常運賃大人4,280円)。
なお、通勤定期であれば、通常運賃の定期券だけでなく、オフピーク定期券を選択することも可能です。

お待たせしました!実際に購入した普通乗車券(マルス券)および定期乗車券をご覧いただきます!
神田駅・御茶ノ水駅・秋葉原駅間のきっぷの実物

普通乗車券および定期乗車券の別に、神田駅・御茶ノ水駅・秋葉原駅間のきっぷの実物をご紹介します。乗車券をよりスムーズに購入したいと考え、区間内にある秋葉原駅の窓口に出向きました。
このきっぷを購入する際に駅員とやり取りをする場合、上述した運賃規則に適合していること(乗車経路通りに乗車券を購入したいこと、乗車距離が初乗り運賃区間に収まること)を説明すれば、問題なく購入できると考えます。
普通乗車券
ここでご紹介する各駅発着の普通乗車券は、駅窓口で購入した一般式8.5cm大のマルス券です。
神田駅→神田駅

大都市近郊区間内相互発着であるため、経由欄には最短経路の線区名がすべて記載されています(なぜか総武線の記載がありません)。当然途中下車はできず「下車前途無効」と記載されています。
環状線経路を時計回りに乗車しても、反時計回りで乗車しても問題ありません。
御茶ノ水駅→ 御茶ノ水駅

きっぷ券面に記載されている情報やきっぷの使用方法に関しては、上述した神田駅発着の普通乗車券と全く同じです。
秋葉原駅→秋葉原駅

きっぷ券面上の情報や使用方法に関しては、上記のきっぷと同じです。
定期乗車券
定期乗車券に関しては、筆者の好みで神田駅発着としました。

環状線一周経路の定期乗車券は、極めて珍しいケースです。定期乗車券に関しては乗車経路通りに購入しなければならないので、通学定期でなければ同一駅発着であっても議論の余地なしに購入可能です。
旅客営業取扱基準規程第186条第4項により、この経路については経由欄に(近)と記載される場合があります。しかし、マルスで発券した限り、接続する各駅名が原則通りに記載されていました。
まとめ

神田駅・御茶ノ水駅・秋葉原駅を結ぶ営業キロ2.9kmの環状線一周経路は、全国のJR線区間の中でも最短です。初乗り運賃で周回乗車できる区間としては、全国で唯一です。
この経路においては、普通乗車券と定期乗車券が購入できます。
普通乗車券に関しては、環状線一周となるため、普通片道乗車券のみ購入可能です。大都市近郊区間で完結する経路にかかわらず、乗車経路通りに普通片道乗車券を購入できます。
この区間の普通片道乗車券には大都市近郊区間に関する規定が適用されるため、神田駅・御茶ノ水駅・秋葉原駅間の最短経路に限らず、山手線一周などの大回り乗車が可能です。
定期乗車券に関しては大都市近郊区間の適用がないため、乗車経路通りに運賃計算を行います。普通乗車券と異なり、定期乗車券では大回り乗車ができないことに留意したいです。
この記事を最後までお読みいただき、ありがとうございました!
参考資料
● 旅客鉄道株式会社 旅客営業規則
● 旅客鉄道株式会社 旅客営業取扱基準規程
当記事の改訂履歴
2025年5月28日:当サイト初稿
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