鉄道きっぷの世界では、ここ最近デジタルきっぷへの移行の流れが見られるようになりました。
鉄道のきっぷは、これまで紙のきっぷが主流でした。航空や高速バスに関しては早くからネット予約や電子チケットが導入されていましたが、鉄道では後れをとっていました。
2021年以降、鉄道きっぷのデジタル化(DX)の流れが顕著になってきました。現在みられるデジタルきっぷは、フリーきっぷや電子特急券が主流ですが、普通乗車券や定期券のアプリ版も登場しています。
デジタルきっぷの前身として、Suicaなどの交通系ICカードが全国で普及しています。在来線における近距離乗車券では、紙のきっぷから交通系ICカードへの置き換えがかなり進んでいます。一方、新幹線のきっぷや在来線の特急券については、交通系ICカードでの改札通過やチケットレス特急券の導入がようやく進んできています。
この記事では、鉄道きっぷを語るためには欠かせないトピックとして、紙のきっぷからデジタルきっぷへの移り変わりについてお話しします。
- 紙のきっぷとデジタルきっぷの違い
- 紙のきっぷからデジタルきっぷへの移り変わり
- JR四国/京都丹後鉄道の手売りきっぷとデジタルきっぷ/タッチ決済
デジタルきっぷが主流に?
列車に乗車する際、駅の窓口や券売機で紙のきっぷを購入するのが一般的です。誰もが疑うことがない社会通念ではないでしょうか。しかし、この習慣がきっぷのデジタル化で変わるかもしれません。
紙のきっぷにはないデジタルきっぷの利点は、いつでもどこでも誰でも買えることです。特に、フリーきっぷは現地でしか購入できないものが多いです。しかし、スマートフォンでデジタルきっぷを購入できるようになり、購入のハードルが下がりました。
また、私鉄の特急列車の予約購入ができる箇所が限られ、沿線住民にとって比較的有利でした。電子特急券の普及で、居住地にかかわりなく公平に購入できるようになりました。
現状では、依然として紙のきっぷが必要な場面が多くあります。また、乗り鉄の記念には紙のきっぷが好まれます。硬券や常備券、補充券といった手売りきっぷも人気がありますが、出札業務の縮小で発売する駅が急減しています。
まさに今、鉄道きっぷの世界も時代の転換点にあるのではないでしょうか。
紙の手売りきっぷとタッチ決済が併存する京都丹後鉄道の例は、とても興味深いです。列車に乗車するためのきっぷの在り方が、大きく変わろうとしています!
紙のきっぷとデジタルきっぷの違い
きっぷの変遷を語る前に、紙のきっぷとデジタルきっぷの媒体としての違いを簡単に比較したいと思います。
● 紙のきっぷ
運賃・料金を支払い、その証として受け取る紙片を「乗車券類」といいます。乗車券類は、一般的には「紙のきっぷ」と呼ばれます。
紙のきっぷの券面には有効期間と金額が記載され、紙片そのものが経済的価値を持っています。したがって、紙のきっぷは有価証券にあたりますが、貨幣とは異なり、有効期間を過ぎると無価値の紙切れになります。
乗車券類は基本的に無記名の紙片で、使用を開始するまでは自由に譲渡が可能です。ただし、定期券や使用開始後の乗車券の譲渡は禁止です(旅客営業規則167条)。
● デジタルきっぷ
スマートフォン上で運賃・料金のオンライン決済を行うと、デジタルきっぷが画面に表示されます。駅員さんや車掌さんに提示する点では紙のきっぷと同様ですが、きっぷそのものはユーザーの手元にはありません。きっぷのデータは、鉄道会社のサーバー上に電磁的に保持されています。
スマートフォンに表示される券面が、きっぷの代金を支払ったという証拠になります。しかし、この画面そのものには経済的価値がなく、単なる電子データに過ぎません。
紙のきっぷと違い、デジタルきっぷを購入するには、氏名や生年月日といった個人情報や、クレジットカード番号などの決済情報を登録します。個人が特定され、実質的に記名式であるため、安全性が高いといえます。購入したデジタルきっぷを他人に譲渡することは、特に認められた商品以外は不可能です。
交通系ICカードの登場からデジタルきっぷの始まりまで
かつては紙のきっぷを必ず買ってから列車に乗車しましたが、2000年代初頭に交通系ICカードが登場しました。交通系ICカードの元祖は、JR東日本の「Suica」で、登場してからすでに20年以上経ちます。
交通系ICカードは全国で多くの種類が発行されていて、群雄割拠な状況です。そんな中、2013年には主要な交通系ICカード10銘柄が共通化され、全国で使用できるようになりました。これを契機に、列車に乗る際にきっぷを買わなくても済む交通系ICカードが主流になりました。
交通系ICカードの登場に前後して、列車のネット予約サービスが始まりました。スマートフォンの普及に伴って、指定券の情報をスマートフォンで表示する電子特急券(チケットレス特急券)が登場しました。これが、デジタルきっぷの始まりです。
2020年頃から「MaaS(マース)」という動きが始まりました(MaaSとは「Mobility as a Service」の略)。ユーザーにとっては、きっぷの買い方が駅からスマートフォンに変わることを意味します。この流れの中で、デジタルフリーきっぷや電子特急券が、デジタルきっぷとして発売されるようになりました。
2021年はMaaS元年とも言える年で、多くの鉄道会社からMaaSアプリがリリースされたり、新たなデジタルきっぷが発売され始めました。その象徴的な一例が、2021年8月に東武鉄道から限定発売された「東武本線乗り放題デジタルきっぷ」です。
このきっぷには、東武東上線を除く東武本線系統の全線に2日間乗り放題のデジタルフリーきっぷと東京スカイツリーの入場チケットが含まれていて、ねだんは大人3,000円でした。
これは、デジタルフリーきっぷの券面です。券面とはいってもスマートフォンで表示する画面に過ぎません。
それでは、実際に紙のきっぷとデジタルきっぷの券面を見ていきましょう!
紙のきっぷからデジタルきっぷへの変遷実例
それでは、紙のきっぷからデジタルきっぷへの変遷についてよく分かる、JR四国および京都丹後鉄道の事例を具体的にご紹介します。現在でも紙の手売りきっぷを発売している駅がある一方、デジタルきっぷやタッチ決済を提供していて、その幅の広さが興味深いです。
JR四国
JR四国管内では出札業務が全社的に縮小していて、みどりの券売機プラス(インターホン付き指定席券売機)が普及する代わりに有人窓口が減少しています。
● 紙のきっぷ
マルス端末が設置された主要駅以外にも、POS端末が設置された駅が何か所かありました。2024年に入って、それらの駅の業務が一斉に終了しました。
その駅の一例が、予讃線端岡駅(香川県高松市)です。日中時間帯に高松駅の駅員が派遣され、POS券を発売していました。2024年に無人化されましたが、有人駅だった頃に訪問しました。
他にも、簡易委託で手売りきっぷを発売する駅があります。予土線近永駅(愛媛県鬼北町)は、知る人ぞ知る「きっぷ鉄」の聖地です。この駅で発売される常備券は、なかなかの逸品です。
また、補充券類も一通り揃っています。いかんせんJR四国の出札業務縮小のペースが速いことから、近永駅の業務がいつまで続くか心配です。。
● デジタルきっぷ「しこくスマートえきちゃん」
JR四国が2022年にリリースしたデジタルきっぷアプリが「しこくスマートえきちゃん」です。普通乗車券、自由席特急券、フリーきっぷおよび定期券がこのアプリで購入できますが、アプリはなかなか良く作り込まれています。
このアプリで発売されるきっぷの範囲はJR四国管内に限られますが、実用面で大体の用が足ります。JR四国管内には自動改札がほとんど設置されていないため、このようなアプリがよく合います。
これは、「しこくスマートえきちゃん」で購入した普通乗車券です。会員登録が必要で、決済もクレジットカードによるオンライン決済ですが、購入履歴が残ります。リピートするユーザーにとっては便利です。
使用開始前の画面です。スマートフォンに表示する画面(券面)にはQRコードが表示されています。実際は、駅員さんや車掌さんに提示することが多いです。
使用済みの状態です。紙のきっぷは、希望しない限り回収されて手元に残りません。しかし、デジタルきっぷでは使用済みのきっぷが履歴として残ります。
「しこくスマートえきちゃん」アプリの詳細については、以下の記事を是非ご一読ください。
京都丹後鉄道
いまだに手売りきっぷが広く発売されているのが京都丹後鉄道で、きっぷ鉄(きっぷ収集の愛好家)には人気があります。
● 紙のきっぷ
普通乗車券に限らず、料金券を含めて硬券が多く発売されています。
JR直通列車用の常備券や料金専用補充券も発売されています。
● タッチ決済
日本で初めて、VISAカードによるタッチ決済に対応しました(普通・快速列車のみ)。2020年11月より始まりましたが知名度が低く、筆者が現地を訪問した時には気付きませんでした。
京都丹後鉄道の普通列車の車内には、タッチ決済用のリーダーが設置されています。タッチ決済のクレジットカードおよびQRコード(WILLERアプリ)に対応しています。
古くからの紙のきっぷと先端の決済技術が共存する、興味深い稀な鉄道会社です。
京都丹後鉄道における紙のきっぷの数々については、以下の記事を是非ご一読ください。
まとめ
列車に乗車するためのきっぷには、紙のきっぷ以外にデジタルきっぷがあります。デジタルきっぷは2020年代に入ってから普及が始まり、デジタルフリーきっぷや電子特急券から展開されています。
紙のきっぷについては、紙片そのものに経済的価値があるため、有効期間中は有価証券として扱われます。一方、デジタルきっぷは単なる画面で、そのものには価値がありません。したがって、きっぷを他社に譲渡できるか否かで、両者には大きな差があります。
デジタルきっぷの普及の始まりが、2021年8月に発売された「東武本線デジタルきっぷ」です。このきっぷはあくまでも実証実験としての発売だったと思われますが、ユーザーにとっては大変おトクでした。
JR四国や京都丹後鉄道では、手売りきっぷからスマホアプリで発売されるデジタルきっぷ、タッチ決済まで幅広く見られます。
最後まで記事をお読みいただき、ありがとうございました!
参考資料 References
● 京都丹後鉄道 日本初、鉄道でVisaのタッチ決済を導入 ~タッチするだけで乗車可能!運賃支払いがますます便利に~ | WILLER株式会社
改訂履歴 Revision History
2024年6月30日:初稿 修正
2023年12月07日:初稿 修正
2023年11月28日:初稿 修正
2023年11月16日:初稿 修正
2023年11月14日:初稿
コメント