JRきっぷ「特定都区市内制度」の基本~賢くきっぷを買うワザ~

東京駅在来線駅名標 運賃制度

鉄道きっぷを買う時には、出発する駅と目的地の駅を指定します。通常は、旅行を開始する駅と、旅行を終了する駅のそれぞれの駅名がきっぷに表示されます。

しかし、長距離のきっぷを買う場合、個々の駅名ではなく「東京都区内」「●●市内」と表示されていて、あれっと思った経験があるのではないでしょうか。

JRきっぷのルールには、東京都23区や古くからある政令指定都市について、当該都区市内に所在するJR駅をまとめて一つの駅とみなす考え方があります。それらの駅を一つにまとめると、1つのゾーンが形成されます。

長距離のきっぷについては、個々の駅(単駅)ではなく都区市内のゾーンを発駅および着駅とします。これを「特定都区市内制度」といいます。きっぷを発売する上で、ユーザーにとってもJRにとってもメリットがあるよう、合理的に制度設計されています。

この記事では、JRきっぷにおける「特定都区市内制度」について、最も基本的な事項を取り上げます。この制度を活用すると様々なワザを活用できますが、まずは基本を押さえたいです。

この記事を読むと分かること
  • JRきっぷにおける特定都区市内制度の概要
  • EXサービスや新幹線eチケットには制度が適用されないこと
  • 運賃計算方の特性上、時に違和感があること

メリットが多いけどトリックも多い「特定都区市内制度」

東海道新幹線N700系

東京23区内や主要な政令指定都市内に所在するJR線の駅を一つのゾーンとして扱う「特定都区市内制度」によって、きっぷの買い方が簡単になります。

ユーザーにとっては旅行を開始する駅(発駅といいます)と旅行を終了する駅(着駅といいます)を細かく指定しないで済みます。一方、きっぷを発売するJR側の実務上においても発行が簡便で、双方にとってメリットがあります。

発駅から着駅までの営業キロ(運賃計算キロ)で運賃計算するのが、基本ルールです。しかし、特定都区市内制度が適用される場合には基本が修正され、各ゾーンの中心駅から運賃計算を行います。そのため、きっぷの運賃計算上多くのギャップが発生します。トリックが多いと申し上げたのは、そのギャップを応用することで、運賃の節約につながるワザを生み出せるからです。

合理的な制度ながら奥が深いのが「特定都区市内制度」で、ケースによっては違和感があることも確かです。

特定都区市内制度に関係した裏ワザを考えるのが、鉄オタにとっては楽しみだったりします。。

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新幹線のチケットレス乗車サービスには適用されない

スマートEXポスター

先に申し上げておくと、新幹線にチケットレス乗車できる「エクスプレス予約」および「スマートEX」(両者あわせて「EXサービス」)、それに加え「新幹線eチケット」においては、特定都区市内制度が適用されません。乗車する距離にかかわらず、料金が新幹線停車駅単位(単駅)で設定されています。

例えば、東海道新幹線で東京駅から新大阪駅まで移動する際に購入するきっぷの区間は、EXサービスでは「東京▶新大阪」です。一方、紙のきっぷでは「東京都区内▶大阪市内」となります。

そのため、新幹線の乗車区間に接続するJR在来線に乗車する場合、その運賃が別にかかります。一方、特定都区市内制度が適用された紙のきっぷには、ゾーン内のJR在来線運賃相当分が含まれます。両者にはギャップがあるため、運賃計算上のトリックとなります。

ここから、特定都区市内制度の基礎をきちんとお話しします!

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特定都区市内制度の概要と背景

東京23区内や主要な政令指定都市内にあるJR線の駅を発着する場合、実際に発着する駅ではなく、各ゾーンの中心駅を基準として運賃計算を行うよう定められています。これを、「特定都区市内制度」といいます。

JR各社の営業約款の一つ「旅客営業規則」の第86条に、特定都区市内制度の規定があります。

特定都区市内制度の対象となるきっぷ

この制度の対象となるのは、各ゾーンの中心駅から片道201km以上となる普通片道乗車券です。例えば、東京駅から大阪駅までの営業キロは556.4kmと、片道201km以上です。普通乗車券の発駅は東京駅ではなく「東京都区内」、着駅は大阪駅ではなく「大阪市内」となります。

特定都区市内制度が適用されるゾーンは、東京都区内(東京23区)をはじめとして全国に12個あります。各ゾーンについては、後述します。

東京については、東京都23区全域が対象となる東京都区内の他に、東京都心部が対象となる「東京山手線内」というゾーンが定められています。このゾーンに関しては、例外的に片道101km以上の普通乗車券が対象になります。

東京都区内となる駅範囲

東京23区内の駅を発着する普通片道乗車券の場合、東京駅から201km以上あり「東京都区内」となる主な駅は、新幹線では掛川駅(静岡県掛川市)/長野駅(長野県長野市)/浦佐駅(新潟県南魚沼市)/郡山駅(福島県郡山市)です。在来線では、上諏訪駅(長野県諏訪市)/泉駅(福島県いわき市)が該当します。

東京山手線内となる駅範囲

東京駅から101km以上離れ「東京山手線内」となる主な駅には、熱海駅(静岡県熱海市)/高崎駅(群馬県高崎市)/宇都宮駅(栃木県宇都宮市)/水戸駅(茨城県水戸市)/銚子駅(千葉県銚子市)があります。

特定都区市内制度と大都市近郊区間制度の関係について。大都市近郊区間内で完結する経路であっても、上記の距離要件を満たせば特定都区市内制度が適用されます。交通系ICカードによるSF乗車であっても、運賃計算方は紙の普通乗車券を準用するため、両者には差はありません。

特定都区市内制度が生まれた背景

特定都区市内制度が生まれた背景には、きっぷの発売が手売りだった時代のきっぷ発売の実情があります。

東京都区内をはじめとした各ゾーン内には数多くの駅があり、実際に発着する駅できっぷを発売すると、非常に煩雑です。きっぷが手売りだった時代には、各駅に対応した多くの券種(口座)を常備しなくてはなりませんでした。常備する口座数を減らし、きっぷの発売を簡素化するために、この制度が誕生したと言われています。

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特定都区市内制度における各ゾーンの範囲

前述した通り、全国には12箇所のゾーンがあります(東京山手線内を含む)。ここでは、主要なゾーンについては図を掲載しつつ、各ゾーンの中心駅・略号や注意事項を説明します。

東京23区の他、古くから存在した政令指定都市が、特定都区市内制度の対象になっています。現在、全国には政令指定都市が20ありますが、それらすべての都市がJRの特定都区市内制度の対象になっているわけではありません

国鉄時代に制定された制度がそのままの形で引き継がれており、JR移行後には新たなゾーンが追加されていません。

東京都区内[区]中心駅:東京駅

下図の通り

東京都区内

東京駅から201km以上離れた駅を発着する普通乗車券に適用されます。大きなゾーンで、中心駅の東京駅から出口駅の西荻窪駅までは20.6kmあります。

東京山手線内[山]中心駅:東京駅

下図の通り

東京山手線内

東京駅から101km以上離れた駅を発着する普通乗車券に適用されます。山手線の範囲内ということで、中央線の御茶ノ水駅から千駄ヶ谷駅までの駅も含まれます。

横浜市内[浜]中心駅:横浜駅

下図の通り

横浜市内・川崎・鶴見線内

行政上横浜市内に所在するJR駅の他に加え、川崎市内の一部のJR駅が含まれます(川崎駅・尻手駅・川崎新町駅・小田栄駅および鶴見線内の駅)。「横浜市内・川崎・鶴見線内」と呼ぶのが本来正確ですが、きっぷの券面には「横浜市内」と表示されます。

名古屋市内[名]中心駅:名古屋駅

東海道本線南大高駅・名古屋駅間/中央本線金山駅・新守山駅間/関西本線八田駅・春田駅

京都市内[京]中心駅:京都駅

東海道本線山科駅・桂川駅間/山陰本線梅小路京都西駅・保津峡駅間/JR奈良線東福寺駅・桃山駅間

大阪市内[阪]中心駅:大阪駅

下図の通り

大阪市内

行政上の大阪市内のJR駅の他に、周辺市に所在するJR駅を一部含みます(南吹田駅・高井田中央駅・JR河内永和駅・JR俊徳道駅・JR長瀬駅・衣摺加美北駅)。

神戸市内[神]中心駅:神戸駅

下図の通り

神戸市内

山陽新幹線新神戸駅を含みます。福知山線道場駅(神戸市北区)は行政上神戸市内ですが、JRの特定都区市内制度の対象外です。

広島市内[広]中心駅:広島駅

下図の通り

広島市内

行政上広島市内に所在する駅の他、海田市駅(広島県海田町)・向洋駅(広島県府中町)が含まれます。

北九州市内[九]中心駅:小倉駅

鹿児島本線門司港駅・折尾駅間/日豊本線南小倉駅・朽網駅間/日田彦山線石田駅・呼野駅間/筑豊本線本城駅・若松駅間

福岡市内[福]中心駅:博多駅

下図の通り

福岡市内

JR筑肥線内の駅は、行政上福岡市内であっても、特定都区市内制度の対象外です(姪浜駅・下山門駅・今宿駅・九大学研都市駅・周船寺駅)。

仙台市内[仙]中心駅:仙台駅

東北本線南仙台駅・岩切駅間/仙石線あおば通駅・中野栄駅間/仙山線東照宮駅・奥新川駅間

札幌市内[札]中心駅:札幌駅

函館本線ほしみ駅・森林公園駅間/千歳線平和駅・上野幌駅間/札沼線八軒駅・あいの里公園駅間

特定都区市内に属する駅の駅名標

特定都区市内にあるJR駅の駅名標には、特定都区市内であることが表示されています。駅名標の右上に、□で囲まれた上記略号が表示されています。これで、その駅が特定都区市内制度が適用されていることがわかる形です。

東京駅在来線駅名標

東京駅在来線ホームの駅名標です。東京都区内かつ東京山手線内に含まれる駅なので、略号[区][山]が表示されています。

東京駅新幹線駅名標

東京駅東海道新幹線ホームに掲げられた駅名標です。在来線ホームと同様、[区][山]が表示されています。

大阪駅駅名標

大阪駅ホームにある駅名標です。大阪市内の駅ということで[阪]が表示されています。駅名標のデザインによっては、略号が白抜きで表示されることもあります。

それでは、特定都区市内制度が適用されたきっぷを実際に見てみましょう!

特定都区市内制度が適用されたきっぷの実例・運賃計算方

ここでは、特定都区市内制度が適用された普通乗車券の実際の券面および運賃計算方を説明します。

● 大宮駅から名古屋市内ゆき普通片道乗車券

大宮駅から中央本線大曽根駅(名古屋市東区)まで実際に乗車した際に使用した普通乗車券です。実乗区間は上記通りですが、運賃計算は大宮駅から名古屋市内の中心駅名古屋駅の営業キロにて行います

大宮駅から名古屋市内ゆき普通乗車券

【運賃計算】

大宮駅→名古屋駅:営業キロ396.3km/片道6,600円

【実乗区間】

大宮駅→名古屋駅:営業キロ406.1km

実乗距離の406.1kmではなく運賃計算上396.3kmでの運賃額を算出します。実乗距離ベースよりも1段分運賃が低額になります。

「券面表示の都区市内各駅下車前途無効」という表示が、きっぷの券面にあります。着駅のゾーンに入ったら(このケースでは名古屋市内)、最初に改札口を出場した際にきっぷが回収されますという意味です。

● 高崎問屋町駅から東京山手線内ゆき普通片道乗車券

上越線高崎問屋町駅(群馬県高崎市)から新幹線経由の乗車券です。実乗区間にかかわらず、運賃計算は高崎問屋町駅から東京山手線内の中心駅、東京駅までの営業キロにて行います

高崎問屋町駅から東京山手線内ゆき普通乗車券

【運賃計算】

高崎問屋町駅→東京駅:営業キロ107.8km/片道1,980円

【乗車可能区間】

高崎問屋町駅→品川駅:営業キロ114.6km

実際は、手前の駅で途中下車し、先の区間を使用しませんでした。

「山手線内各駅下車前途無効」という表示が、きっぷの券面にあります。このケースの場合、東京山手線内のゾーンに入ったら、最初に改札口を出場した際にきっぷが回収されますという意味です。

特定都区市内制度のメリット・デメリット

中央本線大曽根駅駅名標

特定都区市内制度の主なメリットおよびデメリットを考えたいと思います。

メリット

冒頭で申し上げた通り、特定都区市内制度のキモは、きっぷの発売事務が簡素化されることにあります。また、ユーザー目線では駅名が単純になるため、きっぷを買う際の駅員とのコミュニケーションが簡単になるかと思います。この点においては、JR側にもユーザー側にもメリットがある制度です。

デメリット

中心駅からゾーンの一番外側に位置する出口駅までの距離が長ければ長いほど、運賃計算上のギャップが目立つようになります。特定都区市内制度がなかったとしたら低額になるはずの運賃が高額になる場合があります。

東京都区内でみると、東京駅から西荻窪駅までの営業キロが20.6kmあります。また、仙台市内では、中心駅の仙台駅(仙台市青葉区)から出口駅の仙山線奥新川駅(仙台市青葉区)までの営業キロが、同じ行政区ながら33.8kmもあります。

中心駅から出口駅までの営業キロが20kmを超えると運賃計算上のギャップが特に顕著になり、違和感が大きくなるのがこの制度のトリックであり、デメリットと言えるでしょう。

ただし、事務の簡便さと違和感とのバランスが取れるのが営業キロ200km程度であって、制度設計自体は妥当だと思います。

この先は、マニアックなワザをいろいろと紹介します!

特定都区市内制度のトリックいろいろ

条文自体は比較的単純な特定都区市内制度ですが、実は大変奥が深いです。特定都区市内制度を活用したワザはいくつもありますが、それぞれ内容が濃いため、別の記事として執筆したいと思います。

● 規則第86条の但し書き(単駅扱い)

この制度の裏付けとなる旅客営業規則第86条には但し書きがあるため、制度が奥深いものとなっています。

ゾーン内を一旦通り、ゾーン外に出てから再び当該ゾーンに戻り、着駅に至る場合(逆方向も同じ)、特定都区市内制度が適用されません。この場合、発駅および着駅が単駅となります。

旅客営業規則86条但し書き

複雑な経路で長距離を旅行する以外には、ほとんどお目見えしないパターンかと思います。実例を含んだ詳細については、以下の記事(↓)を是非お読みください。

● 特定都区市内制度適用を回避するため1駅手前までのきっぷを購入

特定都区市内の中心駅まで乗車しないケースが考えられますが、その場合でも中心駅までが運賃計算の対象です。したがって、特定都区市内制度が適用されることで運賃が割高になる区間が出てきます。

特定都区市内ゾーンに入る1駅手前までの普通乗車券とゾーンに入るための普通乗車券の2枚を事前に購入して併用することが、運賃節約につながります。

詳しくは、以下の記事(↓)を是非ご一読ください。

● 特定都区市内制度におけるゾーン内の複乗

同じ区間を折り返して乗車する場合(複乗といいます)、折り返す駅で運賃計算を打ち切るのが原則です。

しかし、特定都区市内制度におけるゾーン内においては、便宜を図るために複乗が認められます。また、営業キロが短く特定都区市内制度に該当しない場合にも複乗が認められる例外が、内規に定められています。詳しくは、次のページ(↓)をご一読ください。

● チケットレス乗車サービス「タッチでGo!新幹線」と特定都区市内制度

東北・上越新幹線の自由席を利用する場合に、事前購入操作なしに交通系ICカードでチケットレス乗車できるのが「タッチでGo!新幹線」です。ただし、特定都区市内制度は適用にならず、新幹線停車駅ベースの料金が設定されています。

在来線に乗り継ぐ場合、通しの乗車券(紙のきっぷ)を買った方が総額が安くなるケースがあります。

● 「エクスプレス予約」「スマートEX」と特定都区市内制度

新幹線を「エクスプレス予約」もしくは「スマートEX」でチケットレス乗車する場合、特定都区市内制度が適用されません。その場合、新幹線停車駅からJR在来線を乗り継ぐ場合、運賃が別になります。

ここで、EXサービスの料金と在来線の運賃の総額と、通しの普通乗車券+新幹線特急券(エクスプレス予約会員専用「e特急券」)の総額のどちらが安く上がるかという問題が生じます。

特定都区市内制度が適用された普通乗車券を使用した方が総額が低くなる傾向があるため、どちらがおトクか、各種ツールを利用してシミュレーションすることをおススメします。

まとめ

東京駅在来線駅名標

普通乗車券の片道の営業キロが201km以上、かつ発駅もしくは着駅が東京都区内や大阪市内をはじめとしたゾーンに属する場合、運賃計算に「特定都区市内制度」が適用されます。対象になるゾーンは全国に12個ありますが、本文にて説明した通りです。

実際に発着する駅から運賃計算を始めるのではなく、各ゾーンの中心駅を基準に運賃計算を行います

現在は端末できっぷを発行できることから、この制度のメリットが薄れました。しかし、きっぷの発売や購入が簡便になる点でのメリットが大きいため、制度を廃止したとしたら影響が大きいでしょう。

ゾーンが大きければ大きいほど運賃計算にギャップが生じがちで、時に違和感を覚えることがあります。しかし、鉄オタにとっては奥が深く、研究しがいのある興味津々なトピックです。

最後までこの記事をお読みくださり、ありがとうございました!

参考資料 References

● JR旅客営業規則のQ&A(自由国民社)2017.5

● 旅客鉄道株式会社 旅客営業規則 第86条(特定都区市内にある駅に関連する片道普通旅客運賃の計算方)

● 東日本旅客鉄道株式会社ICカード乗車券取扱規則 第29条(IC運賃等の計算経路等)

改訂履歴 Revision History

2024年5月05日:初稿 修正

2024年4月25日:初稿 修正

2024年02月14日:初稿 修正

2024年01月07日:初稿 修正

2023年11月28日:初稿 修正

2023年11月24日:初稿

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