「途中下車」というと、音楽の曲を連想される方もいるのではないでしょうか。とても心躍る単語ですが、元々は鉄道きっぷの制度上の用語です。
鉄道における途中下車制度とは、きっぷに記載された最終目的地の駅(「着駅」といいます)に着くまでの途中駅できっぷを渡さずに改札口を出場して、その後着駅までの旅行を継続できることを指します。
着駅で改札口から出場する際には、原則的にきっぷが回収されます。その場合、いかなる場合でもきっぷが回収されると思いがちです。しかし、実は途中下車制度が根本的なルールで、途中駅ではきっぷを渡さなくてよいのが本来の姿です。
途中下車制度をうまく活用して最終目的地までのきっぷを通しで買うと、改札口を出るたびに乗車券を買い直すよりも、合計金額が安く上がることがあります。
この記事では、鉄道きっぷの「途中下車」制度について詳しく掘り下げ、運賃の節約につながるケースをご紹介します。
- 途中下車制度の制度設計の優秀さ
- ネット予約サービスで購入したきっぷは途中下車不可
- 途中下車制度を活用した運賃計算にはあらかじめ試算が必要
途中下車制度の活用で旅費の節約につながる場合も
新幹線や特急列車がほぼ完備された現在では、旅行を始める駅(発駅)から旅行を終了する最終目的地の駅(着駅)まで1日あれば到着する場合が大半です。
そのようなわけで、きっぷの途中下車制度は忘れられつつありますが、きっぷのルールとしては現在でもしっかり存在しています。特に、鉄オタにはよく利用される制度です。
途中下車制度を活用する最たるメリットは、(乗車券部分の)運賃を節約できることに尽きます。例えば、発駅の東京駅から途中駅の新大阪駅に一旦立ち寄り、その後着駅の博多駅まで向かう場合に、運賃だけでも片道で約4,700円節約できます。
途中下車制度には細かな条件があり、使い方に留意すべき点がいくつかあります。この制度をうまく活用できれば、鉄道旅行に幅を持たせられることは間違いありません。
乗車するたびにきっぷを別々に買うことを疑わない方がほとんどだと思いますが、きっぷの買い方にはいろいろな方法があることを覚えておいていただきたいです。
乗車券の有効期間内に途中駅に立ち寄りながら着駅に向かう場合、途中下車制度に助けられると思います。活用しないともったいない制度です。
途中下車とは~制度の概要とルールの原則~
冒頭で申し上げた通り、途中下車制度は鉄道の運賃制度の中でも最も根幹を成すものです。ここでは、途中下車とは何か、制度面の詳細を押さえたいと思います。
途中下車制度の背景
新幹線が発達する前は、着駅まで1日で移動できない場合が多々ありました。夜行列車に乗車して2日以上かけて着駅に向かったり、途中駅で宿泊しながら着駅に向かうケースがありました。
そのようなことから、発駅から着駅までを一つの旅行の単位として扱うのが、途中下車制度の背景にあります。昔の旅行スタイルの名残が、途中下車制度として今でも残っているわけです。
途中下車の定義
途中下車は、JR各社のルールブックである旅客営業規則の第156条に規定されています。
発駅から着駅に向かう際、逆方向に戻らない限り、途中駅できっぷを回収されずに改札口を出場し、着駅までの旅行を継続できることが、途中下車の定義です。
現在では途中下車できることが例外と誤解されがちですが、実は途中下車できることが基本原則です。途中下車を制限するルールの修正が複雑多岐なことから、途中下車をめぐるルールが難解になっています。
途中下車制度が適用される範囲
かつてはJR以外の私鉄でも多く見られた制度ですが、現在ではJR各社における制度と考えて実質的に問題ありません。JR以外の私鉄において途中下車できる例外も一部に残っていますが(西日本鉄道や一畑電車)、基本的には対象外です。
途中下車制度が適用されるのは、運賃部分です。途中下車ができるきっぷでユーザーにとって一番なじみがあるのが、普通乗車券だと思います。
特急券やグリーン券には途中下車制度は適用されず、1個の列車に対して1枚のきっぷを買う必要があります(これにもいくつか例外がありますが、本記事では割愛します)。
途中下車するために必要な手続き
以下のような途中下車できない条件に該当しない限り、日にちや時間帯にかかわらず途中下車が可能です。
途中下車できるきっぷを購入する際、事前に申請する必要は特にありません。途中下車できる条件に合致する限り、途中下車できるきっぷが自動的に発行されます。途中下車に制限がないきっぷを持っていれば、自由に途中下車できます。
途中駅で改札口から出場する際には、きっぷを見せて途中下車したい旨申し出ます。その時には、有人改札を通ると無難です。自動改札機が途中下車制度に対応している駅も多々ありますが、駅によっては誤って回収されてしまう場合があります。念のため、駅員さんにその都度確認することをおススメします。
途中下車した場合、きっぷに途中下車印が押されます(実例については後述します)。
途中下車制度を修正するルール~途中下車できない場合~
先に申し上げた通り、きっぷのルール上は途中下車が可能なのが原則です。しかし、途中下車が可能な原則を修正するルールがいくつかあり、途中下車できない場合も多くあります。ここでは、途中下車ができないケースを見ていきたいと思います。
途中下車できないきっぷの券面には「下車前途無効」と記載されています。
営業キロが100km以下の普通乗車券
営業キロが100km以下の近距離普通乗車券については、途中下車ができないことが規定されています。この理由は、近距離の旅行では着駅まで1日あれば到着することが十分に可能で、途中下車が必然ではないためです。
注意すべき点は、途中下車の可否判定は営業キロで行うことです。地方交通線が含まれる経路で、運賃計算キロが仮に101km以上の運賃帯になったとしても営業キロが100km以下の場合、途中下車はできません。
大都市近郊区間内で完結する普通乗車券
首都圏や近畿圏を始め、全国のJR線内にはいくつかの「大都市近郊区間」が定められています。大都市近郊区間に関するルールによってきっぷの基本的ルールがかなり修正されています。このルールはかなり複雑なので、詳細な内容は別の記事(↓)を是非ご一読ください。
大都市近郊区間制度によって修正されたルールの一つに、途中下車が不可能な点があります。営業キロが101km以上であっても、大都市近郊区間内で完結する旅行には途中下車制度が適用されず、下車するたびに運賃計算が打ち切りとなります。
JR東日本管内にはSuicaエリアがいくつかありますが、そのエリアと大都市近郊区間の範囲が一致する形です。遠くは浪江駅(福島県浪江町)や松本駅(長野県松本市)までこのゾーンに含まれ、長距離の旅行になることから、途中下車できないことには賛否あります。
交通系ICカードのエリアまたがりになる経路(例:SuicaエリアとTOICAエリアまたがり)については、営業キロが101km以上であれば途中下車できると考えて差し支えありません。会社またがりになる普通乗車券に関しては、途中下車制度をなくすのは今後も難しいでしょう。
特定都区市内制度が適用された普通乗車券
東京都区内や大阪市内などの大都市に関しては、その域内にあるJRの駅を一つの駅として扱うルールがあります。これを「特定都区市内制度」といいます。
例えば、東京都区内から大阪市内の普通乗車券で特定都区市内制度と途中下車の関係を見ると、東京都区内の駅では改札口を出場できず、大阪市内の駅で改札口を出場する際に旅行終了となります(きっぷが回収されます)。各ゾーン内の駅では途中下車できないことになります。
両都区市内間の途中駅で途中下車することは、もちろん可能です。
特定都区市内制度は、実に奥が深い運賃計算ルールです。当該制度の詳細については、別の記事(↓)をご一読ください。
普通回数乗車券
無割引の普通回数乗車券はJR各社から消滅していますが、ルール上途中下車不可とされています。
他にも、「●●回数券」と称する商品がありますが、それらは企画乗車券です。そのため、商品それぞれのルールが別に定められています。
特別企画乗車券(トクトクきっぷ)
特別企画乗車券は、普通のきっぷに適用される一般ルール(旅客営業規則)を適用せず、特別なルールを個々に定めます。大多数の片道/往復きっぷ型企画乗車券においては、途中下車が不可能とされています。
企画乗車券の代表例には、ネット予約サービスで購入する次のきっぷがあります。
- 東海道・山陽・九州新幹線「EX予約」「スマートEX」
- 東北・北海道・上越・北陸新幹線「新幹線eチケット」
えきねっとで購入できる「トクだ値」や、エクスプレス予約で購入できる「EX早特●●ワイド」などの早割商品も、これらの商品に含まれます。
ネット予約サービスで購入したきっぷには途中下車制度が適用されず、途中駅で改札口を出た場合、その時点できっぷが無効になります。
途中下車制度における特別な事項
途中下車制度には、一般ルールでは説明しきれない特殊な場面があります。連絡運輸が関係する場合とフリーきっぷの場合についてご説明します。
連絡運輸における途中下車
JR線と他の私鉄各線との連絡運輸で発行される連絡乗車券にも、途中下車制度が適用されます。途中下車に関する上記のルールが、連絡乗車券にも準用されることになっています。
JR線の各大都市近郊区間に接続する私鉄各線の区間を含む連絡乗車券については、途中下車ができません。
注意すべき点は、途中下車可否の距離判定には、JR線と私鉄線を通算した営業キロを使用することです。たとえJR線の営業キロが100km以下だとしても、私鉄線を含めた全区間で101km以上であれば全区間で途中下車が可能です。
途中下車が可能な連絡乗車券の典型例が、特急「ふじさん」号が走る小田急線とJR東海御殿場線にまたがる普通乗車券です。通算で101km以上になる場合、きっぷの有効期間は2日間です。その場合、途中下車には特に制限がありません。
これは、三島駅(静岡県三島市)から小田急新宿駅(東京都新宿区)ゆきの普通乗車券です(松田駅接続)。全区間の営業キロが101km以上であるため、途中下車が可能です。御殿場線と小田急線を通しで乗車するには交通系ICカードを使用できず、紙のきっぷを購入する必要があります。それゆえ、比較的よく見られるきっぷだと思います。
他には、新潟近郊区間に接続する北越急行ほくほく線が含まれるケースがあります。新潟近郊区間を越える経路の場合には、原則通り途中下車が可能です(例:直江津駅→水上駅)。
フリーきっぷについて
一日乗車券などの各種フリーきっぷでは、フリー乗車区間内の各駅で改札口の出入りが自由にできます。一例として、首都圏の主要区間が1日乗り放題の「休日おでかけパス」があります。
きっぷを回収されずに改札口を出入りできるという点では途中下車制度によく似ていますが、旅客営業規則上の途中下車とは意味合いが異なる点に留意しましょう。
途中下車制度を活用したきっぷの実例
ここでは、途中下車が可能なきっぷと途中下車ができないきっぷの実例をご紹介します。
途中下車が可能なケース
途中下車が可能なきっぷの事例として、中央本線大曽根駅(名古屋市東区)から北陸本線敦賀駅(福井県敦賀市)ゆき普通乗車券をご紹介します。
距離が101km以上であり、大都市近郊区間も含まれないため、原則通りに途中下車が可能なきっぷです。米原駅で実際に途中下車したので、途中下車印が押されました。
途中下車ができないケース
途中下車ができないきっぷの事例として、勝田駅(茨城県ひたちなか市)から大宮駅(さいたま市大宮区)ゆき普通乗車券があります(本例は往復乗車券)。
両駅とも、大都市近郊区間の一つである東京近郊区間に含まれます。きっぷの券面には「下車前途無効」と記載されているため、途中下車できません(改札口から出場したらきっぷは回収されます)。
途中下車制度を活用したきっぷの節約術
途中下車制度の対象となるのは、営業キロが101km以上の中長距離の普通乗車券です。片道の距離が長ければ長いほど、よりおトクに制度設計されています。そのことを「長距離逓減制」といいますが、詳細は以下の別記事(↓)を是非ご一読ください。
長距離逓減制が適用された長距離の普通乗車券を発駅から最終的な着駅まで購入し、途中駅で途中下車することで、きっぷの制度設計を最大限おトクに活用できます。
皆さまにとって分かりやすい事例として、東京駅から新大阪駅を経て、博多駅まで新幹線に乗車する経路を挙げたいと思います(実際に乗車する場合、乗車券の他に新幹線特急券が必要です)。
● 通しの普通乗車券をあらかじめ購入する場合
東京都区内→福岡市内:1,174.9km/片道14,080円(7日間有効)
東京都区内→福岡市内:1,174.9km/往復25,340円(14日間有効)
● 東京駅と新大阪駅でそれぞれ分割購入する場合
東京都区内→大阪市内:556.4km/片道8.910円(4日間有効)
大阪市内→福岡市内:618.5km/片道9,790円(5日間有効)
合計:18,700円
このような場合、それぞれの列車に乗車する直前に別々にきっぷを購入する場合が多いのではないでしょうか。
しかし、あらかじめ旅程が決まっているのであれば、あらかじめ全旅程のきっぷを購入した方がおトクなことが一目瞭然です。
今回の事例では、東京都区内から福岡市内ゆきの乗車券を通しであらかじめ購入し、新大阪駅で途中下車することで、乗車券部分が片道で約4,700円の節約になります。往復ともJR線(新幹線)を利用するのであれば往復割引が適用され、さらにおトクになります。
7日間で最終目的地である福岡市内に着く必要がありますが、途中下車制度の利点が最大限発揮されます。
通しのきっぷが高額なことも
いま、途中下車制度によって最大限のパフォーマンスが出る事例を紹介しましたが、通しのきっぷを買うことが逆に作用し、高くつくこともあります。
信越本線横川駅(群馬県安中市)から高崎駅、大宮駅を経て、着駅の土呂駅(さいたま市北区)に至る片道乗車券を一例に考えます。
● 通しの普通乗車券をあらかじめ購入する場合
横川駅→土呂駅:107.4km/片道1,980円(新幹線経由:2日間有効)
● 横川駅と高崎駅でそれぞれ分割購入する場合
横川駅→高崎駅:29.7km/片道510円
高崎駅→土呂駅:77.7km/片道1,340円
合計:1,850円
信越本線への乗り換え駅である高崎駅で一旦改札口を出場し、きっぷを分割購入した方が低額になります。途中下車するのが高崎駅のみである限りは、通しではなくきっぷを別々に購入するするのが適切です。
まとめ
知る人ぞ知る途中下車制度は、必ずしも多くのユーザーに積極的に活用されているわけではありません。遠距離きっぷを買ってみたら、途中下車が可能だと気が付く場合がほとんどかと思います。
途中下車制度は、JRの運賃計算ルールの中でも根幹を成すものです。途中下車が可能なきっぷを持っていれば、途中駅できっぷを回収されることなく旅行を継続できます。途中下車が可能なきっぷは乗車券だけで、特急券やグリーン券といった料金には適用されません。
ユーザーにとっての利点が多い途中下車制度ですが、大都市近郊区間制度によって修正され、途中下車できないケースがあることに注意を払いたいです。
また、「エクスプレス予約」や「スマートEX」「新幹線eチケット」といった、新幹線にチケットレス乗車するきっぷは企画乗車券に分類され、途中下車制度の対象外です。
途中下車制度を活かし、通しの乗車券を購入することで運賃の節約が可能になるケースが、遠距離になればなるほど多いです。しかし、中距離の経路では、途中駅で乗車券を分割した方が総額が安くなることがあります。経路ごとに毎回試算することをおススメします。
最後までこの記事をお読みくださり、ありがとうございました!
参考資料 References
● 旅客鉄道株式会社 旅客営業規則 第156条(途中下車)
● 旅客鉄道株式会社 旅客連絡運輸規則 第76条(途中下車)
改訂履歴 Revision History
2024年02月26日:初稿 修正
2023年11月28日:初稿 修正
2023年11月19日:初稿
コメント
自分は茨城の常磐線沿いで新幹線がないため途中下車出来るようにするのに上野〜東京を新幹線経由の八丁堀(京葉線で東京の次)にしたことあります。八丁堀までにすると山手線内で途中下車はもちろん、東京付近の自由に重ならなければ自由に通れて途中下車も出来る区間(山手線内、赤羽以南、錦糸町以西)を通れるなどかなり最高な乗車券になりました。それで日暮里から京浜東北線で赤羽、埼京線で池袋、山手線で高田馬場、新宿、中央線で四ツ谷、総武線で秋葉原、浅草橋、錦糸町と途中下車して東京駅へ行き帰りは高速バスを使ったときあります。