東京駅や上野駅にて、東北・上越新幹線と常磐線などの在来線各線を乗り継ぐのは、ごく日常的なことです。その際、きっぷの買い方を意識することなく、乗り継いでいる人が多いのではないでしょうか。
鉄道運賃には、折り返して乗車する場合には別のきっぷを購入するという原則があります。しかし、東京駅と常磐線が接続する日暮里駅の間については、折り返し乗車となるにもかかわらず、一定のきっぷを持っていればそのまま乗車できます。
これは「区間外乗車」という特例によるものであり、対象区間を運賃計算に含めずにきっぷを発売し、きっぷがない状態で乗車を認める形です。
また、JRきっぷには「特定都区市内制度」という仕組みがあります。東京都区内や東京山手線内発着のきっぷを持っていれば、東京駅や上野駅から日暮里駅方面に折り返し乗車が可能です。
これらの特例によって、乗車した分の対価を支払うことなく列車に乗車できることになりますが、このようなことは案外知られていません。一体、きっぷを持たない状態での折り返し乗車は、どのような根拠で認められているのでしょうか。

東京駅・日暮里駅間は特定都区市内に含まれる上、特定の分岐区間に対する区間外乗車特例が重複適用されます。日暮里駅で列車を乗り継ぐ常磐線ユーザーがこの特例を知っていれば、余裕ある乗車体験を得られることは間違いありません!
この記事では、東京中心部における特定都区市内制度と区間外乗車特例の切っても切り離せない関係を、いくつかの事例を交えてひも解いていきます。
むやみに多くの特例に話を広げず、特定都区市内制度(規則第86条・第87条)と区間外乗車特例(規則第160条の2・第160条の3)の関連性を中心に内容を構成したことをお含みおきいただければ幸いです。
- 特定都区市内発着の普通乗車券を持っていれば、当該ゾーン内の複乗が可能であること
- 上野駅・日暮里駅間の区間外乗車は、普通乗車券のみならず定期乗車券でも可能なこと
- 大都市近郊区間制度に基づく迂回乗車中にも、区間外乗車特例が適用・準用されること
特定都区市内における折り返し乗車(複乗)と区間外乗車~東京駅・日暮里駅間の複雑さ~

東京中心部には東海道新幹線と東北・上越新幹線が乗り入れており、停車駅である東京駅(東京都千代田区)・品川駅(東京都港区)・上野駅(東京都台東区)では在来線に乗り継ぐことが可能です。その際、新幹線と在来線の進行方向が反対で、折り返す形で乗車することがしばしばあります。
いま来た線路を折り返して乗車することを「複乗」と言い、別のきっぷを買い直すのが原則です。
東海道新幹線に関しては、新橋駅(東京都港区)方面から東京駅に向かい、新幹線に乗り継ぐケースがこのケースに該当します(東京駅・品川駅間が別線化されたため、厳密な意味で複乗とは言えなくなりました)。
一方、東北・上越新幹線に関しては、東京駅や上野駅で乗り継ぐ以下のケースが複乗に該当します。
- 神田駅(東京都千代田区)以遠の各駅から東京駅に向かい、大宮駅方面に乗り継ぐ場合
- 鶯谷駅(東京都台東区)以遠の各駅から上野駅に向かい、大宮駅方面に乗り継ぐ場合
神田駅・鶯谷駅・日暮里駅(東京都荒川区)は東京都区内および東京山手線内に含まれる駅ですが、いずれの駅にも上野東京ライン(東北本線)の駅が設置されていません。そのため、きっぷの規則上話が非常に複雑なのです。
ここで、東京駅・赤羽駅間の位置関係を見てみましょう。

東京駅・上野駅間は新幹線と在来線(東北本線)が完全に並行しており、その先の赤羽駅方面に向けても同様です。日暮里駅には山手線・京浜東北線と常磐線のホームが設置されているものの、上野東京ライン(東北本線)のホームはありません。
日暮里駅から赤羽駅に向けては、京浜東北線が王子駅(東京都北区)を経由し、上野東京ラインが尾久駅(東京都北区)を経由します。尾久駅から山手線や常磐線方面に向かいたい場合、ホームがない日暮里駅では乗り継ぐことができず、上野駅もしくはそれ以遠の駅まで出なければなりません。
このように、東京駅から赤羽駅の区間に向けては、各路線の位置関係が非常に複雑であることがお分かりいただけるのではないでしょうか。この複雑な位置関係が、特定都区市内制度や区間外乗車特例の適用方をややこしくする一因になっています。
特定都区市内制度に関する基本知識に関しては、以下の記事に分かりやすくまとめてあります。ぜひご一読ください。


当記事で見ていく事例には、特定都区市内制度のみならず、区間外乗車特例が重複適用されるものも含まれます。合わせ技になるので、区間外乗車特例についても押さえましょう!
折り返し乗車(複乗)に必要なきっぷの原則と例外

ここでは、一度通った線路を折り返す形で乗車する場合の原則と例外についてご説明します。
乗車区間に対して運賃がかかる原則
乗車する区間のキロ程に応じて運賃がかかるのが、鉄道きっぷの基本原則です(規則第67条・第68条)。同じ方向に連続して乗車する場合に限って乗車区間のキロ程を通算し、その分の運賃を算出します。
いま来た経路を折り返す場合、折り返す駅でいったん運賃計算を打ち切り、1枚の普通乗車券を発売します。その先の区間に対しては運賃計算を別に行い、別の普通乗車券を発売する形です。
上述した区間においては、日暮里駅もしくは尾久駅から上野駅ゆきの普通乗車券と、上野駅から各駅ゆきの普通乗車券の2枚が本来必要です。
特定の区間において複乗のための運賃がかからない例外
しかし、日暮里駅に上野東京ラインのホームがないのは、鉄道会社の都合です。設備上の制約による追加の対価をユーザーに求めるのは、合理的ではありません。
また、特定都区市内の各駅から新幹線等に乗り継ぐために複乗する場合に別のきっぷを購入させるのも、出札業務の簡素化を意図した特定都区市内制度の導入趣旨に反します。
そのため、JR各社の運送約款である「旅客営業規則」では、上野駅・日暮里駅間のような特定の分岐区間に対する区間外乗車(規則第160条の2)や特定都区市内における複乗(規則第160条の3)について規定されています。
日暮里駅や尾久駅から上野駅に向かい、途中下車することなく新幹線等に乗り継ぐ場合には特例が適用され、結果的に複乗区間分の運賃を払わなくてもよいわけです。
特定都区市内制度が適用されない近距離区間の場合
全区間の営業キロが特定都区市内制度の適用条件に満たない場合、特定都区市内での複乗に関する例外は区間外乗車特例のみになります。
先の例では、乗車する距離にかかわらず適用されるのは、東京駅・日暮里駅間もしくは上野駅・日暮里駅間にかかる区間外乗車特例です。
しかしながら、特定都区市内制度が適用されない近距離区間であっても、当該制度が適用される場合と同等の複乗が可能な場合があります。
上野東京ライン尾久駅以遠の各駅から上野駅に向かい、上野駅で日暮里駅方面に折り返す場合にも、複乗が認められるケースが見られます。
注意を払う必要があるのが、大都市近郊区間相互発着である普通乗車券を使用する場合です。迂回乗車の経路によって、区間外乗車の可否に影響が及びます。
これから実例をきっぷとともにご紹介しますが、規則上の裏付けが明確でないものがあり、非常に興味深いところです。
区間外乗車特例の基本については、以下の記事をぜひご一読ください。


特定都区市内制度と区間外乗車特例の基本をそれぞれ押さえたところで、複乗が可能なきっぷの実例を見ていきましょう!
特定都区市内制度および区間外乗車特例による複乗が可能なきっぷの実例

東京山手線内に至るまでの距離によって複乗が可能な状況がどのように変化するかを比較できるように、ここでは3枚のきっぷを順に見ていきたいと思います。
設例1:宇都宮駅から東京山手線内ゆき普通乗車券【規則第87条適用】
1つ目の事例は、東京山手線内の中心駅、東京駅までの営業キロが100kmを超えるものです。東北本線宇都宮駅(栃木県宇都宮市)を好事例として挙げたいと思います。

宇都宮駅は東京駅から109.5km離れており、宇都宮駅・東京駅間の普通乗車券には特定都区市内制度が適用されます。東京駅側については特定都区市内制度が適用され、着駅は「東京山手線内」です。

宇都宮→東京山手線内
経由:宇都宮・新幹線・小山・東北
営業キロ:109.5km 普通運賃:2,090円
特定都区市内制度の説明において、一部区間を新幹線経由としたことには、途中下車可能とすること以外の意味は特にありません。
新幹線と在来線を問わず、宇都宮駅から日暮里駅まで乗り継ぎなしで到達することは不可能です。最寄りの停車駅である上野駅から日暮里駅に向かうには、必然的に複乗となります。折り返す形になるにもかかわらず、上野駅・日暮里駅間の運賃は別にかかりません。
この根拠は、規則第160条の3第1項です。
第160条の3(特定都区市内等における折返し乗車の特例)
特定都区市内発若しくは着又は東京山手線内発若しくは着となる普通乗車券を所持す
る旅客は、列車に乗り継ぐため同区間内の一部が復乗となる場合は、当該区間について乗車することができる。
特定都区市内を1つの駅と考えると、その駅の中を移動するにはどこを通ってもよいことになります。したがって、特定都区市内のいずれかの駅で改札を出場しない限り、特定都区市内の中の移動は自由です。
上野駅・日暮里駅間の複乗に別途運賃を課したら、特定都区市内制度の趣旨に反することは誰が見ても明らかでしょう。
設例2:土呂駅から西日暮里駅ゆき普通乗車券【規則第157条第2項適用・第160条の2第2号準用】
2つ目の事例として取り上げるのは、東京駅までの営業キロが100kmに満たない区間です。東北本線土呂駅(さいたま市北区)を事例として取り上げます。

土呂駅は大宮駅の外方に位置し、東京駅からの営業キロは33.3kmです。2026年3月まで存在した東京附近の電車特定区間からは元々外れており、上野東京ライン・湘南新宿ラインの列車に乗車して東京中心部まで向かうのが基本です。
土呂駅・東京駅間の普通乗車券については、当然ながら特定都区市内制度は適用されません。

土呂→西日暮里
経由:東北・山手
営業キロ:33.3km 普通運賃:530円
この普通乗車券を持っている場合に取れる経路を考える上では、以下の2点を勘案する必要があります。
- 乗車区間が大都市近郊区間内で完結するため、最短経路以外の迂回乗車が認められること
- 日暮里駅・上野駅間の区間外乗車が可能なきっぷには、大都市近郊区間相互発着である普通乗車券も含まれること
したがって、この普通乗車券を持っていれば、上野駅で折り返し乗車することは規則上可能です。
この普通乗車券を「えきねっと」および指定席券売機で購入する際、上野駅で乗り継ぐことを検索条件に指定してみました。

「えきねっと」で検索したところ、区間外乗車となる日暮里駅・上野駅間を含んでいても、西日暮里駅まで1枚のきっぷで乗車可能と判定されました。

指定席券売機で経路検索を行っても、同じ結果でした。
上野東京ラインに乗車して上野駅まで向かい、山手線・京浜東北線に乗り継いで目的地の西日暮里駅で改札口を出場する場合、当該区間が複乗に該当します。
きっぷを購入する過程で、規則に基づいた複乗がシステム上認められていることを確認できました。
設例3:大宮駅から日暮里駅ゆき普通乗車券
3つ目の事例は、土呂駅よりも東京駅寄りに位置する大宮駅(さいたま市大宮区)を発着するケースです。

東京駅・大宮駅間の営業キロは30.3kmです。2026年3月までは、東京附近の電車特定区間に含まれていました。大宮駅から西日暮里駅や日暮里駅までは、京浜東北線を利用すれば乗り換えなしで向かうことが可能です。
大宮駅・東京駅間の普通乗車券については、やはり特定都区市内制度は適用されませんが、新幹線区間を含まないため大都市近郊区間制度が適用されることを押さえておきましょう。
【第1券片】

大宮→上野
経由:東北・山手・東北
営業キロ:30.3km 普通運賃:530円
【第2券片】

上野→日暮里
経由:東北
営業キロ:2.2km 普通運賃:160円
先の事例と同様に、上野駅で乗り継ぐことを検索条件としました。上野駅で乗り継ぐ場合は複乗となるはずですが、今度はどうでしょうか。

「えきねっと」で検索すると、区間外乗車とは認識されず、運賃計算上も上野駅で複乗として扱われる結果となりました。大宮駅発着の場合、京浜東北線を折り返すものと判定された可能性が考えられます。

指定席券売機で経路検索を行ったら、西日暮里駅着では操作を継続できず、日暮里駅着とすると上野駅を境にして2区間分の普通乗車券が発行されました。
日暮里駅に停車しない上野東京ラインの列車を大宮駅から利用した場合、上野駅での乗り継ぎが必要です。それにもかかわらず、システム上、日暮里駅・上野駅間の区間外乗車が可能であると判定できませんでした。
JRの公式見解ではありませんが、規則第157条第2項による迂回乗車と規則第160条の2第2号の準用による区間外乗車の重複適用が可能ではないかと推察します。
土呂駅発着と大宮駅発着で運賃計算にこれほどの差が生じた上に、本来不要な第2券片(上野駅から日暮里駅ゆき)が発売されました。規則上は土呂駅発着と同様に、1枚のきっぷで乗車できるはずでしょう。
これはシステムが京浜東北線経由の直行経路を前提とした判定を行った結果であり、規則とシステムの挙動にねじれが生じていると言えます。

システム設計上(旧)電車特定区間内発着ならば京浜東北線の利用を前提とし、一方で(旧)電車特定区間外発着であれば上野東京ライン利用で区間外乗車を認めるアルゴリズムが組まれていると仮定すれば、この計算結果自体は腑に落ちます。ただし、発着駅によって乗車可能な運行系統を限定すること自体、幹線運賃に統一された今となっては不可解です。
大宮駅はかつて電車特定区間に含まれていたため、大宮駅発着の場合京浜東北線経由で運賃計算が行われ、土呂駅以遠の各駅発着の場合は上野東京ライン経由を前提に運賃計算されている可能性があります。

東京駅・日暮里駅間の区間外乗車に関して理解を深めるため、規定上区間外乗車が明確に認められる事例をきっぷでご紹介します!
特定の分岐区間に対する区間外乗車の実例【規則第160条の2第1号・第2号】

特定の分岐区間に対する区間外乗車の特例は、従来はJR各社の内規である旅客営業取扱基準規程に規定されていました。2024年に旅客営業規則に移行され、一般ユーザーが知り得る状況になりました。
ここでは、特定の分岐区間に対する区間外乗車特例が明確に認められた3つの事例をご紹介します。
設例4:土浦駅から熊谷駅ゆき普通乗車券【規則第160条の2第1号】
4つ目の事例は、常磐線土浦駅(茨城県土浦市)から高崎線熊谷駅(埼玉県熊谷市)ゆき普通乗車券です。

この経路には新幹線が含まれるため、大都市近郊区間制度が適用されず、経路通りに運賃計算を行います。常磐線と東北本線が接続する日暮里駅と上越新幹線が停車する上野駅の区間(規則上は東京駅まで)が、特定の分岐区間に対する区間外乗車特例の対象です。

土浦→熊谷
経由:三河島・上野・新幹線・大宮・高崎線
営業キロ:122.7km 普通運賃:2,420円
この事例においては、三河島駅以遠の常磐線と西日暮里駅以遠の東北本線を結ぶ経路であるため、規則第160条の2第1号が適用となります。
第160条の2(特定の分岐区間に対する区間外乗車の特例)
次の各号に掲げる各駅相互間発着(第157条第2項の規定により当該区間を乗車する場
合を含む。)の乗車券を所持する旅客は、当該各号に定める区間のうち左方の駅以外の駅において途中で出場しない限り、当該区間について乗車券面の区間外であつても乗車することができる。(1) 西日暮里以遠(田端方面)の各駅と三河島以遠(南千住方面)の各駅との相互間
日暮里・東京間(定期乗車券にあつては、特別車両定期乗車券を除くものとし、日暮里・上野間に限る。)
このように、常磐線と東北本線にまたがる経路において接続駅が日暮里駅である場合、厳密には東京駅・日暮里駅間が区間外乗車の対象区間です(定期乗車券については上野駅・日暮里駅間のみ、グリーン定期券は対象外)。
このきっぷに関しては、日暮里駅までの常磐線区間と日暮里駅から先の東北本線区間(王子駅経由)をもとに運賃計算を行います。東京駅・日暮里駅間の往復分11.6kmは運賃計算に含めない代わり、区間外乗車中、鶯谷駅以南の各駅では途中下車できないことに留意しましょう。
設例5:尾久駅から日暮里駅ゆき普通乗車券【規則第160条の2第2号】
5つ目の事例は、東北本線尾久駅(東京都北区)から東北本線日暮里駅ゆき普通乗車券です。

この経路は、尾久駅発着かつ日暮里駅発着であり、特定の分岐区間に対する区間外乗車特例の対象になります。

尾久→日暮里
経由:東北
営業キロ:2.6km 普通運賃:160円
尾久駅発着のこの事例については、規則第160条の2第2号がそのまま適用されます。
(2) 日暮里、鶯谷又は西日暮里以遠(田端方面)若しくは三河島以遠(南千住方面)の各駅と、尾久駅との相互間(特別車両定期乗車券を使用する旅客を除く。)
日暮里・上野間及び鶯谷・上野間
このように、発着駅によって鶯谷駅・上野駅間または日暮里駅・上野駅間が区間外乗車の対象です(グリーン定期券は対象外)。
このきっぷに関しては、実乗車キロ7.0kmから日暮里駅・上野駅間の往復分4.4kmを差し引き、営業キロ2.6km分の運賃は160円と求められます。
日暮里駅・上野駅間の営業キロ4.4km分を運賃計算に含めないのが、ポイントです。
設例6:西日暮里駅から尾久駅ゆき普通乗車券【規則第160条の2第2号】
最後の事例は、東北本線西日暮里駅から東北本線尾久駅ゆき普通乗車券です。前例と類似していますが、理解を深めるためにご紹介します。

この経路は、尾久駅発着かつ西日暮里駅以遠の各駅発着という条件に該当し、前例と同様に特定の分岐区間に対する区間外乗車特例の対象です。

西日暮里→尾久
経由:東北
営業キロ:3.1km 普通運賃:200円
この事例についても、尾久駅発着の経路に適用される規則第160条の2第2号が区間外乗車の根拠となります。
このきっぷに関しては、実乗車キロ7.5kmから日暮里駅・上野駅間の往復分4.4kmを差し引き、営業キロ3.1km分の運賃は200円と求められます。
運賃規則の奥深さが招くシステム上の不完全さ

土呂駅から尾久駅経由で上野駅まで乗車し、上野駅の改札で出場することなく日暮里駅や西日暮里駅に向けて折り返す場合、大都市近郊区間制度による迂回乗車(規則第157条第2項)と特定の分岐区間に対する区間外乗車特例(規則第160条の2第2号の準用)の重複適用が可能です。
大宮駅発着の場合も規則上は同様に扱えると推察しますが、システム(マルス)がその判定を行えていない点が問題です。
この区間をめぐっては、大都市近郊区間制度の適否によって適用すべき条文が多岐にわたります。そのためシステムへの実装には不向きであり、エラーを潰すのが困難な要因になり得ます。
上記の経路を取る場合、ユーザーの移動実態は土呂駅発着と大宮駅発着では全く同じです。
それにもかかわらず、大宮駅発着の場合に限ってシステムが「京浜東北線で直行できるはずだ」と融通の利かない判定を行い、きっぷを2枚に分割してしまいます。
このような点はシステム上の大きな問題である一方、運賃制度の奥深さを物語っているとも言えるでしょう。
まとめ

当記事では、特定都区市内における折り返し乗車(複乗)や特定の分岐区間に対する区間外乗車特例について、実例を交えて検討してきました。
東京山手線内に関しては、規則第160条の3第1項によって、東京山手線内発着となるきっぷに関してゾーン内において自由に複乗が可能です。また、尾久駅発着となるきっぷに関しては、規則第160条の2第2号によって上野駅・日暮里駅間の複乗が認められています。
規則第160条の2第2号による上野駅・日暮里駅間の複乗に関しては、乗車区間が大都市近郊区間相互発着である場合における迂回乗車にも適用されます。
問題となるのが、特定都区市内制度が適用されない場合における複乗です。
原則的には、一度通った線路を折り返す場合は、折り返す駅以降のきっぷを別途購入しなければなりません。しかし、土呂駅(530円・1枚)と大宮駅(530円+160円・2枚)では、1駅の違いにもかかわらず運賃総額ときっぷの枚数に差が生じました。
土呂駅発着の場合、規則第157条第2項および規則第160条の2第2号の準用によって、上野東京ライン経由で上野駅まで乗車し日暮里駅方面に折り返す経路が1枚のきっぷで認められます。
一方、大宮駅発着の場合、システムが京浜東北線経由の直行経路を優先して判定するためか、上野駅・日暮里駅間の区間外乗車を認識できませんでした。
規則上は土呂駅発着と同様に扱えると推察しますが、システムの判定処理において不整合が生じた形です。この区間をめぐっては適用すべき条文が多岐にわたるため、システムへの実装が難しく、規則と実際の挙動との間に乖離が生じやすい要因になっています。
移動実態が同じであるにもかかわらず、規則の複雑さゆえにシステムの挙動にねじれが生じてしまう点に、JRの運賃制度が持つ奥深さと一筋縄ではいかない面白さが隠されていると言えるでしょう。
この記事を最後までお読みいただき、ありがとうございました!
参考資料
● JR旅客営業制度のQ&A(自由国民社)2015.3 pp149-150
● 旅客鉄道株式会社 旅客営業規則
当記事の改訂履歴
2026年6月15日:当サイト 第2稿
2024年01月07日:当サイト初稿(リニューアル)
2023年4月13日:前サイト初稿(原文作成)


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